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摘要

 

開発や圃場整備などにより止水性昆虫の生息場所が消失、変質、あるいは分断し、全国的に衰退している。止水性昆虫の保護のためには水辺環境の確保とネットワーク化が重要であるとされている。本研究では、止水性昆虫の保護のための基礎データを得るために、稲作が営まれている山間部と市街地の緑地にため池を造成し、そこに成立する水生昆虫群集について調査を行った。

1999年5月に大阪府能勢町長谷の標高約350mの棚田上部(以下、長谷)と堺市内の標高約30mの大阪府立大学実験圃場(府大圃場)に、それぞれ面積約50m2、30m2のため池を造成し、調査地とした。調査は5月から12月まで原則として週1回、長谷では計26回、府大圃場では計23回、水生昆虫網で池の中の水生昆虫をすくい取り、種と個体数を記録した。これとは別に両調査地でトンボ類成虫の目視調査も行い、目撃された種と個体数を記録した。

新しく造成したため池における水生昆虫群集の成立過程をみると、長谷では造成後1ヶ月以内にガムシやシマゲンゴロウなど20種近くが確認され、その後も新たな昆虫の移入が続き、最終的には51種に達した。これに対して、府大圃場では造成後1ヶ月の段階で確認されたのはシオカラトンボ類、ウスバキトンボ、ユスリカsp.1の3種のみで、全調査期間でも27種の記録にとどまった。

この調査で記録された水生昆虫は、長谷では7目51種のべ19737個体、府大圃場では6目27種のべ7357個体であった。両調査地の共通種はチビゲンゴロウなど16種であり、タガメやガムシなど35種は長谷のみで、アオモンイトトンボやカンムリセスジゲンゴロウなど11種は府大圃場のみで確認された。長谷の優占種は、個体数の多い順にマツモムシ、コミズムシ類、シオカラトンボ類、フタバカゲロウ類、ユスリカsp.1で、これら5種で全個体数の77%を占めた。一方、府大圃場ではケシカタビロアメンボ、ユスリカsp.1、シオカラトンボ類、アオモンイトトンボ、ウスバキトンボの5種で全個体数の86%を占めた。トンボ類成虫は、長谷では6科17種のべ411個体、府大圃場では4科8種のべ117個体が確認され、アオモンイトトンボ、ギンヤンマ、ウスバキトンボ、チョウトンボの4種が府大圃場のみで確認された。優占種は、長谷ではアキアカネ、シオカラトンボ、シオヤトンボ、オオシオカラトンボ、アオイトトンボの5種で占有率は69%、府大圃場ではアオモンイトトンボ、シオカラトンボ、ウスバキトンボ、アオイトトンボ、ギンヤンマの5種で占有率は97%だった。

 

 

 

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