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しかし、優占5種の占有率は2番目に低く、この環境を利用できる種は少なかったが、長年存在していたため、遷移が進んだ環境でもあったと考えられる。

今回、調査区としたこれらの水辺環境は、ため池の造成以前からあり、もともと多くの水生昆虫が生息していたと考えられる。また、成虫が発生する以前にシオカラトンボ類やアカネ類の幼虫が池Aで確認されたことや、ため池造成直後に急速に水生昆虫が増加したのは、これらの環境が水生昆虫の供給源として近くにあったためと考えられる。

 

4. 長谷の池Aの水生昆虫群集の特徴

 

小林(1997、1999)は本研究と同様に大阪府豊能町光ヶ谷の山間部にため池を造成し、3年にわたりその遷移を調査した。また、小林(1999)は大阪府能勢町森上の休耕田において、金田(1999)は同町山間部の地黄湿地において、それぞれ水生昆虫の調査を行った。これらの調査結果を本研究の結果と比較することにより、長谷の水生昆虫群集の特徴について検討を行った。

過去のデータを用いるに当たって、トンボ類Libellulidae spp.(シオカラトンボ、シオヤトンボ、オオシオカラトンボ、ヨツボシトンボLibellula quadrimaculata asahinai)、イトトンボ類Agrionidae spp.(モートンイトトンボ、アジアイトトンボIschnura asiatica、クロイトトンボCercion calamorum calamorum、ホソミイトトンボAciagrion migratus)、モノサシトンボ類Platycnemididae spp.(モノサシトンボCopera annulata、グンバイトンボ)、アカネ類(ナツアカネ、アキアカネ、マユタテアカネ、ノシメトンボSympetrum infuscatum、リスアカネSympetrum risi risi)ユスリカ類Chironomidae spp.をそれぞれ1種として扱った。また、アメンボ類幼虫、ゲンゴロウ類幼虫、ガムシ類幼虫は除外した。

これらの調査で確認された水生昆虫の種数は、長谷では54種、光ヶ谷1年目では26種、光ヶ谷3年目では52種、森上では52種、地黄では49種であった(表7)。

光ヶ谷1年目と長谷のため池Aとの共通種は20種であり、長谷の池Aでは光ヶ谷1年目に確認された種の大半が確認された。光ヶ谷1のみで確認された種はオオアオイトトンボ、ニシカワトンボMnais pruinosa pruinosa、オニヤンマAnotogaster sieboidii、オオミズスマシDineutus orientalis、ホソバトビケラMolanna moesta、マルバネトビケラPhryganopsyche latipennisの6種であった。このうち、ニシカワトンボ、オニヤンマ、ホソバトビケラ、マルバネトビケラの4種は流水性の種であり(神奈川、1983; 井上ほか、1999)、オオアオイトトンボは水上に張り出した木の枝に産卵する性質をもつので(井上ほか、1999)、止水環境で林に隣接しない長谷では発生しにくい種であったと考えられる。

 

 

 

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