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都市化とはこのネットワークが分断され、生息場所が孤立化することであり、都市化により生き残れる種は、シオカラトンボのように適応能力の広さと高い分散能力により、そうした中でもネットワークを築ける種のみである(上田、1998)。このように、水生昆虫は種により移動能力や利用可能な水辺環境が異なる。本研究において府大圃場で確認された種は、分散傾向が強く、さまざまな水辺環境に対する適応能力が広く、多産な種であると考えられる。

 

2. 水田とため池の違い

 

長谷の池Bは9月29日に落水を行い湿田の環境を模した。しかし、それ以前は同時期に造成し、水を張った池Aと移入の過程やそこに構成された水生昆虫群集などに大きな違いは認められず、少なくとも落水までは池AとBの違いは見られなかった。

しかし、落水後は、コウチュウ目やカメムシ目といった移動力の大きい種は見られなくなり、残ったのは移動力の乏しいシオカラトンボ類や、アブTabanidae sp.1などの幼虫だけだった。このことから、落水は水生昆虫群集に壊滅的な打撃を与えると考えられる。しかし、アキアカネのように、秋に耐乾性を持つ卵を産み(新井、1986)、春の水入れ後に孵化し競争者のいない環境をうまく利用する水田歴とあった生活環を持つ種も存在し、このような種にとっては水田はため池よりも好適な生息場所であると考えられる。

 

3. 長谷の他の調査区の水生昆虫群集

 

長谷では、造成したため池の周辺に水路と湿地などの水辺環境が存在している。水路は、確認された水生昆虫の種が57種と長谷の調査区内で最も多かった。また、この調査区では調査開始時から多くの水生昆虫が確認されており、優占5種の占有率が最も低いなど、多くの昆虫にとって好適な環境であったと考えられる。さらに、多くのゲンゴロウ類の幼虫や、少数ながらタガメの幼虫やガムシ類の幼虫も確認されたことから、この場所がこれらの種の繁殖場所である可能性が考えられる。しかし、タガメは水上に出ている植物に産卵し(市川、1993)、ゲンゴロウ類は植物体中に産卵するので(植田、1998)、水田で産卵・孵化した幼虫が水路を通じて移動してきた可能性も考えられる。

一方、湿地は確認された種が35種と長谷の調査区内で最も少なく、10m2当たりの補正個体数も最も低い値を示した。

 

 

 

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