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考察

 

1. 山間部と都市部に造成した池の水生昆虫群集

 

本研究では、山間部に立地する長谷の池Aにおいて調査開始初期から多くの種の移入が認められた。池Aは、周囲に水田や水路、湿地といった旧来の水辺環境があり、長い時間をかけて育まれた水生昆虫群集の存在する生態系の中に造成されたため池である。ここではシマゲンゴロウやマメゲンゴロウAgabus japonicusなどゲンゴロウ類が多く移住したが、八木(1996)によれば、シマゲンゴロウが現れる環境は遷移がある程度進んだ段階とされている。また、大阪府で減少しているタガメやガムシなどを含めて、最終的には長谷の全調査区で確認された63種の約81%に当たる51種もの水生昆虫が見られたことからも、すでに生息場所の一つとして機能したと考えられる。

一方、府大圃場の池では長谷の池Aのような急速な水生昆虫の移住は見られず、最終的にも27種しか確認されなかった。また、長谷の池Aとの共通種は16種確認されたが、そのうち13種では府大圃場の池の方が遅れて移入してきた。府大圃場は、近くに大学附属の農場があり、小規模ながら水田が存在するが、大学周辺は都市化が進んでいるため、周囲に豊かな水生昆虫相を維持する水田環境がない。長谷の池Aと比べて、確認された種数自体が少なく、各種の移入のタイミングが遅れたのはそのためと考えられる。

トンボ目についてみると、成虫は長谷の池Aでは17種、府大圃場の池では8種確認された。府大圃場で確認された種のうち、アオイトトンボ、シオカラトンボ、アキアカネ、マユタテアカネの4種は長谷でも確認された。また、幼虫の共通種はショウジョウトンボ、シオカラトンボ類、ギンヤンマ類の3種であった。長田(1995)や上田(1998)は、トンボ類は都市化に対応して種構成が変化するのではなく、種数が欠落するとしている。これらの種はいずれもある程度の都市化に耐えられる種と考えられる。

一般に、生物が生息する環境はパッチ状に存在し、ため池は最もわかりやすい例である(上田、1998)。ため池のような小さな水系では遺伝的な多様性の低下や攪乱による生息場所の変化などのため、単独での生物個体群の維持は難しいと考えられる。守山(1997)は、トンボ類の絶滅を他のため池からの成虫の移入により補える距離を1km以内としている。豊富な生物相が維持されているため池は孤立して存在しているわけではなく、他のため池との間にネットワークが形成されているのである。

 

 

 

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