面白いのは、1989年のCTDの導入以降に、 0 mを含むペアでの密度逆転の生起頻度が、絶対数・相対数ともに激減していることである。1998年以降も、水温はバケツ採水で行われており、塩分の測定方式が変わっただけである。CTDの連続水温分布が船上でも見られることから、水温の観測ミスが容易に気付かれるようになったのかもしれない。すでに述べたように、 0 mの測定値の精度については種々問題があり、WOD98が設定している表層近くでの甘い閾値設定においても、多くのデータに疑問符が付くことになる。 0 m層のデータについては、観測手法を含めて、今後さらに検討をする必要がある。
5. おわりに
JODCにおける都道府県水産試験研究機関が取得した観測データの収集・データベース化は、気象庁や海上保安庁水路部のものに比べて非常に遅れている。これは、これらのデータが水産庁を経由して収集されていることから生じる時間的な遅れを含め種々の原因がある。その1つとして、初期の観測データの信頼度が、図7の例に見られる様に、やや劣っていたために、JODCのデータ管理者に品質管理が難しいという印象を植え付けてしまい、その意識が、品質が改善された現在も、引き継がれている面がないと言えば嘘になろう。また、これらの多くの機関でデータの提供がややもすると、その業務を離れたボランティア的な形で行われてきたことに関連して人為的な単純ミスが発生したこと、印刷媒体を通す場合は特に多いが、電子媒体を通してもデータが移送される場合、全ての通過ノードにおいて、何らかのミスの発生が起こることも、上に述べたような意識の持続の一因となり、都道府県水産試験研究機関のデータの収集が後回しになったと考えられる。
JODCの集めたデータは、先に述べたNODCによるWOD98の編集に際して大きく貢献してきている。また、内外の大学等の研究機関はJODCデータベースの最大のユーザーであるが、その興味の多くは従来外洋域に集中していたし、JODCがデータ管理を担当する多くの国際プロジェクトも外洋域を対象に実施されるものが多い。都道府県水産試験研究機関では多くの場合、自機関が直接取得したデータの解析だけで多くの労力と時間を消費し、他機関の取ったデータを合わせて解析・研究することが少なかったことも、これらの機関がユーザーとならなかった原因であるが、この背景がJODCのデータ収集先の優先順位に影響したと考えられる。
最近になって、海洋情報研究センターの情報提供部門(財)旧本水路協会海洋情報室)に対して、沿岸海洋域の海洋観測資料の提供要請が非常に多くなって来ている。また、長期にわたり、時間的・空間的に密度の高い都道府県水産試験研究機関のデータヘの要請は、海況の長期変動や季節変動の研究のために大学・研究所関係からも増加しつつある。さらに、多くの都道府県水産試験研究機関においては、集積された膨大な海洋データを自機関で管理し、必要に応じて他機関に提供することが難しくなりつつある。もしも、JODCあるいはMIRCのようなデータ管理機関で正確かつ使い易い形でデータベースが構築されていれば、データ転送技術が発達した現在、自機関の取得したデータでも、データ管理機関から取得する方が便利な場合も十分考えられる。