ところが、 0 mを含むペアについては、発生数はその後も減少せず、むしろ増加している(観測数も増大している)。このことは0 mを含むペアでのエラーが塩分測定精度の問題だけから発生している訳ではないことを示している。
和歌山県水試での 0 m層の観測は、1988年9月まではバケツ採水によっているが、1988年10月以降はNeil Brown社のCTDが導入されたのに伴い、CTDで計測された1〜3 m深度の塩分の値が 0 m層の塩分値として採用されている。しかし、表面水温値の測定には、やはりバケツ採水と棒状温度計が用いられている。この時以後 0 m層を含むペアでの発生数が一般に減っている(1993年の密度逆転発生数が異常に多いのはここでは無視する)ように見える。亜熱帯域では、 0 mを含むペアに密度逆転が生じる原因の1つは、棒状温度計を揺れる船上で読み取る場合、ややもすると温度計の一部を水の外に引き出すことになりがちであること、また測定に手間取るとバケツ内の水温が変化することが考えられる。特に冬期では、低い気温や強風の影響で測定値が低温側に偏ることになれば、見かけ上の密度逆転が、生じることになる。
Fig. 7は絶対数で示してあるので、近年になっての年間観測総数増加の影響を受けている。そこで観測数で割った相対的な生起確率を見てみよう。解析した期間を、測器の変遷に応じて、1963〜1970、1971〜1988、1989〜1995の3つの期間に分けた統計結果を表2に示す。最も左の欄は解析された期間と[ ]内はその年数、次の欄は解析された隣り合った層のペア数とその年平均値、その次の欄の上段が密度逆転の起こったペア数、下段がその全体に対する% 、後の2つの欄が 0 mを含むペアと含まないペアでの逆転の生起数(上段)、全体に対する %、 0 mを含むペアと含まないペアの相対的な生起頻度%である。1970年10月のAuto-Lab社のサリノメーター導入を境に、特に 0 mを含まないペアでの密度逆転の生起頻度が激減していることが分かる。塩分測定測器の改善が、いかに大きな結果を生み出したかが、明らかにこの表から読み取れる。
これに対して、 0 mを含むペアについては、1970年以前と以後について有意な変化が起こっていないようである。ただし、 0 mを含まないペアでの密度逆転の生起頻度が激減したのにともなって、エラーの中での相対的な割合は1971年以降では約2/3が 0 mを含むペアで生じていることになる。