図19 硝酸・亜硝酸態窒素(上)、リン酸態リン(中)、クロロフィルa(下)の縦断分布、1996年6月4日。
おわりに
本報では、おもに夏の伊勢湾について述べた。水深0.5〜1mごとの流速を船上から遠隔的に測ることのできるADCPや、水深0.1mごとの水温・塩分・クロロフィル濃度などを簡単に測ることのできるCTDによって、成層した湾内での様子を手に取るように詳しく知ることができるようになった。また表面の流れの分布は、陸上から電波を使ってリアルタイムで測ることもできる(坂井ら、1998)。これらにあわせ、栄養塩などの濃度分布も、鉛直的に詳しく測ることによって、伊勢湾における生態系・一次生産の仕組みも把握し、モデル化できるようになってきた。今後は、陸上からの人間起源の負荷量の変動や、淡水流入量の年による違い、黒潮流路のゆらぎなどの自然変動の影響が、湾内にどのように表れるかを明らかにしていく必要があろう。
参考文献
藤原建紀(1997):淡水影響域におけるエスチュアリー循環流と生物・物質輸送。海洋気象学会誌・海と空、73(1)、23-30。
藤原建紀・福井真吾・笠井亮秀・坂本亘・杉山陽一(1997):伊勢湾の栄養塩輸送と亜表層クロロフィル極大。海洋気象学会誌・海と空、73(2)、55-61.Fujiwara、T、L.P.Sanford、K.Nakatsuji and Y.Sugiyama(1997):Anti-cyclonic circulation driven by the estuarine circulation in a gulf type ROFI. J.Marine Systems、12(1-4)、83-99。
藤原建紀・福井真吾・杉山陽一(1996):伊勢湾のエスチユアリー循環の季節変動。海の研究、5(4)、235-244。藤原建紀・山尾 理・高橋鉄哉・笠井亮秀・杉山陽一・原田一利(1999):一次生産量の時空間分布の算定法。海岸工学論文集、46(印刷中)。
坂井伸一・水鳥雅文・服部孝之・杉山陽一(1998):VHFレーダによる伊勢湾湾奥の表層流動観測。海岸工学論文集、45、1266-1270。
杉山陽一・中辻啓二・藤原建紀・高木不折(1998):伊勢湾湾中部の残差流系に関する一考察。海岸工学論文集、45、401-405。