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また、「ホスピスって何? 痛いし不安だし、なぜかわかんないけど涙が出てきた。でも自分の気持ちがわかって、人に言えるようになったら楽になって、痛みも取れてきた」という患者に出会った。私は、症状コントロールと同じように、患者の心に目をむけ、患者自身も自分の心に気づけるようサポートすることがどんなに大切か学んだ。そして、患者は、自らがホスピス入院を希望しても、不安や孤独は消えることなく、常に気持ちが変化しているということも感じた。さらに、私は、痛みで動かせない足を見て、「どうしてこんなに痛いのかなー、歩けるようになりたい」という患者にも接した。この時私は、安易に励ましたりせず、今何ができるか患者自身が考えられるように支持するには、看護婦として本当に忍耐のいることだと痛感した。

 

3) パストラルケア

マリアホスピスでは、心のケアとして、霊的ケアも含めてとても深いレベルで関わっている。それはパストラルケアとしてシスター、チャプレンが主体となり、対象が誰であってもとにかく聞くことからはじめ、“傾聴”ということを大切にされている。コミュニケーション技術でも学んだように、傾聴とは、ただ訴えを聞くのではなく、言葉の裏にある患者の本当の気持ちを聞くことであり、医療者としてそれをキャッチするには訓練が必要である。

藤原神父は、スピリチュアルケアをいいかえれば“人生を語る”ことであるといっている。私は、人が大切にしているものを一緒に話し合い、さらに、どんな苦しい人生でも意味があったと本人が気づけるように関わるには、傾聴がとても必要であると教えられた。パストラルケアとして、心のケアはマリアホスピスの日常であるが、ターミナル期において人が死というものを直視した時、このような関わりは不可欠である。また、私は、神父様のお話から、人のなかに入って関わっていく難しさや素晴らしさ、勇気をもつ大切さを学ぶことができたと思う。これからは、私は、人の生き方に焦点を当てて語り合えるようになるために、自分自身の精神の成熟が大きな課題になると思っている。

また、私は傾聴がとても難しいことであると実感したが、川口シスターがいわれた“苦しみに共感するのはやさしい、人の幸せなことを一緒に喜べることが大切”という言葉に、忘れかけていたものに気づいた思いであった。私たちは、患者の本当の心の痛みは何かを中心に考えがちのように思う。マリアホスピスでは、患者の小さな喜ぴを大きく評価し、全員で喜んでいるように感じられ、改めて私は、ターミナルケアではその人のプラスの面を見ていくことが大切であると実感した。

 

おわりに

 

私は、講義を終えたうえで実習をさせていただき、自分なりにホスピスとは何かを考えることができた。ターミナル期では必ずおとずれる苦痛な身体症状と、心の痛み、これらのことを、それぞれの専門性によりチームで関わっていくことだと学んだ。この点から考えると、一般病棟でも十分ケアは可能であり、むしろなくてはならないものである。私は実習で得たものを大切にし、緩和ケア病棟にこだわらず看護していきたいと思う。そして、ホスピスの素晴らしさを一人でも多くの人と共有していきたいと考えている。

私たちは、生きてきた過程、価値観、考え、全て違う一人ひとりをどう捉えるかが大切である。そして、その人が死を迎えるまでに、何を思っているのかを考えた時、言葉では表せない気持ち、形にできない関わりがあるということも教えられた。

私は、これから看護婦としてターミナル期の患者と接する際、一人の人として尊重することを忘れず、最期の時を一緒に過ごせることに感謝していたいと思う。

 

 

 

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