神本真理さんは現在芸大大学院の2年に在学中である。高校時代から、いつの間にかもう長い付き合いになった。彼女は作曲科学生としては少数派の現役入学組の一人であるが、多数の浪人組の中にあって、入学当時はいかにも若く初々しく時には弱々しくも見えたものだった。細身の印象に加えて、作曲の第一歩から彼女を見てきた私の先入観もあったかもしれない。が、新しく直面する作曲の現実の中で、気負いと、これから続くことになる悩みとの相克に、戸惑っていたことも事実だろう。
このところ作曲科も変わり、もう昔のようなモサ連は絶滅寸前の状態。とりあえずカリキュラムを消化していくといった風潮と、全国的傾向の、キャンパスのレジャーランド化とかで、よく言えば学生らしい、裏返せば何となく幼いムードが漂う。彼女のように真剣に悩むのも今では稀有なことだ。
しかし彼女は、試行錯誤の中から、いつも目標を見失うことなく精進し、それを乗り越えて来た。その精神力と勤勉を大いに評価したい。細身の身体に強靭な一面を内包しているのを見る。
それをさらに裏付けたのは、その後襲った二つの大きな運命だった。一つはあの阪神大震災。彼女の実家は神戸のまっただ中、もっとも被害の大きかった東灘区にあるが、家の倒壊こそ免れたものの多大な損害を受けた。そして翌年、突然の父上の病死。彼女の気持ちはとても私の計り知るところではないが、逆境の中で、一言もつらい言葉を漏らすことなく、黙々と作曲を続けた。その頃から書くものがだんだんと明確になってきたのではないだろうか。
もちろん一つが終われば次の迷いが来るのは作曲の必定。しかし、鋭敏な耳と優れたピアノのテクニックなど十分な音楽的能力を示す彼女は、その気持ちのある限り、徐々に領域を広げ解決して行くにちがいない。