日本財団 図書館


表現手段として、時間の流れを海(弦楽器群)に例え、その海の中に事象=回想(他の楽器群)を垣間見ながら回遊してゆく主人公を描いていったが、弦楽器群にはメロディーライン(私が時間軸を認識するために不可欠なもの)を重視したテクスチャを用い、また、特に曲の終盤に於いて、私にとって終わりのない時間軸を象徴するイメージを感じさせてくれる全音音階を多用した。」

高橋氏の作品についても、選考委員諸氏の評価は高いものであった。手慣れた感のある書法か、実際の響きとしてどのように実現されるかが関心を唆るところであるが、<作曲の意図>は、いささか説明が混沌とした印象を与えており、言葉を超えた説得力のある音響像が期待される。

法倉雅紀(のりくらまさき)氏は昭和38年(1963年)10月生まれの35歳。桐朋学園大学音楽学部作曲科を卒業したあと、さらに研究科で研鑽を積み、加えてパリのエコール・ノルマル音楽学校でデイプロマを取得している。作曲を三善晃、さらに平義久、アンリ・デュティユーの各氏に学び、現在、母校の高校と大学とで教鞭を執っている。氏は1985年第54回日本音楽コンクール作曲部門第3位入賞、1987年第9回作曲賞入選を果たしている。日本現代音楽協会ならびに日本作曲家協議会会員。

「羈旅の歌」3人のソリストとオーケストラの為の(“Poeme de voyage ”pour 3 solistes et Orchestre)について、作曲者は次のようなコメントをつけている。

「題名の『羈旅の歌』は柿本人麻呂の最後の歌集(八首による)からとられた。多くの矛盾、謎を含んだ歌の言葉の裏側に全く別の解釈が潜む。或る書から触発され、その『整合』の論理に共感し、この作品創作に至った。'93年にパリにて作曲、'98年東京にて改定。」

約15分のこの作品もまた、譜面審査で評価の高いものであったが、実際に演奏される場合に3人のソリスト(フルート、ヴァイオリンそれにハープ)を必要とすることからくる条件の厳しさが論議の的となった。作曲者のコメントは、作曲のきっかけについては述べているが、内容的な問題には触れていない。第2次選考会を兼ねるコンサートで、この曲が鳴り響く時、その謎が自然に聴き手によって解かれ、満足の行く享受が実現することを心から期待したい。

 

――第22回作曲賞作品募集要領――

オーケストラ作品を下記の要領で募集しています。

1] 資  格

日本国籍を有すること。

2] 申込手続

所定の申込用紙に該当事項を記入し、作品に申込料20,000円を添えて申し込む。(申込用紙は80円切手を同封の上、財団に請求のこと)

3] 申込期限

平成11年9月30日(木)午後3時

4] 表  彰

入選作品は「現代日本のオーケストラ音楽」演奏会にて初演する。入選作品のうち特に優秀作品と認められるものに対し、作曲賞50万円を贈る。さらに、日本財団より作曲賞受賞者に日本財団賞80万円(作曲委嘱料として)が、また作曲賞受賞者のいない場合は最上位入選作品1名に対して日本財団奨励賞として20万円が贈られることが予想されます。(現時点では未定)

5] その他

(1) 未発表作品に限る。

(2) オーケストラは3管の通常編成以内とし、打楽器奏者は5人までとする。その他の制限は特に設けない。

(3) 演奏時間は20分程度以内。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION