曲目解説
ワルツ「春の声」
1883年作曲、変ロ長調、4分の3拍子。
ヨハン・シュトラウスII世がハンガリーで晩餐会に招かれた折、父I世と親しかったフランツ・リストが女主人とピアノ連弾をしている折に、即興的に作りあげ、その場に居合わせたリヒャルト・ジュネが詞をつけたもので、今回はこの歌が聴かれます。
曲は、印象的な導入につづきワルツのテンポが低音弦によって確立され、有名な主題が何度か繰り返されたあと、中間部では弦楽器により新たな旋律が奏でられます。ここでは、木の葉のざわめきや、遠くの狩人の角笛の音色や小鳥たちの愛らしい歌声が、交互にさまざまな楽器を伴って現れます。いっとき音楽は静かでやや悲しげな雰囲気を漂わせますが、やがて明るい旋律に変わります。そして最後には、冒頭の主題が戻り、しだいに高揚して華やかで装飾的な終結に至ります。
ワルツ「皇帝円舞曲」
1889年作曲、初演、ハ長調、4分の3拍子。
威厳にみちた序奏にはじまるこの曲は、1872年まで約10年間宮廷舞踏会楽長の地位についていたヨハン・シュトラウスII世が、1888年、皇帝フランツ・ヨゼフI世の在位40年の記念祝典のために作曲したものとされておりますが、真偽のほどはさだかではありません。
とはいえ、華やかさのなかに威風のみちたこの曲はまさに「皇帝円舞曲」の名にふさわしい曲といえるでしょう。
ピチカートポルカ
1870年作曲、初演、ハ長調、4分の2拍子。
「ポルカ」とは、2拍子のリズムを特徴とするボヘミア起源の舞曲のことです。陽気で活発なこの曲は、1870年の夏、演奏会用の小品として、弟のヨゼフと共同で作曲されました。シュトラウスは、毎年ロシアのパヴロフスクで行われるロシア鉄道のためのコンサートで指揮者をつとめていました。この演奏会は、パヴロフスクから約40キロ離れたサンクト・ペテルブルグからの新線が開通したのに際し、乗客を集めるのを目的として開かれていたもので、彼の出演によって、シーズン中の列車は満員になりました。
またこの曲は娯楽のために書かれた楽しい単純な音楽で、全曲を通してポルカの主題が呈示され、変奏、反復されます。この軽快な雰囲気はすべて、弦楽器のピチカート(弦をはじく奏法)によって効果的に生み出されます。
ワルツ「南国の薔薇」
1880年作曲。
この作品は、1880年初演のシュトラウスの8作目のオペレッタ《女王のレースのハンカチーフ》から美しい旋律を好んだイタリア王ウンベルトI世に献呈されました。晩年の円熟した作曲技法により生み出された彼の代表作のひとつといえる作品です。
中音弦のゆったりとした序奏で始まるこの曲は、シュトラウスならではの魅惑的なワルツが全編を占め、金管が元気よく吹き鳴らす騒がしい旋律で幕が閉じられます。
アンネンポルカ
1852年作曲、初演。
優雅なフランス風ポルカの代表的作品のひとつであるこの曲は、1852年頃、オーストリアはグラーツのアンネンザールという舞踏場のために作曲されました。しばしば混同されるのですが、ウィーン古来の聖アンの祝日を記念して作曲されたともいわれる同名の父による作品もあります。
このポルカは、1つの和音と装飾のつけられた単音の音型が5回現れて始まります。アクセントのきいた愛らしい旋律を弦が中心となって奏で、各種の管楽器が控えめに彩りを添えます。その後、音楽はひととき穏やかな部分に移りますが、やがて再びポルカに戻ると前触れもなく突然止まり、金管を伴う静かな3つの和音が柔らかく奏でられて曲は終わります。
ワルツ「ウィーンの森の物語」
1868年作曲、初演、ハ長調、4分の3拍子。
このワルツには、深い緑におおわれたウィーンの森に対するシュトラウスの愛情がこめられています。当時のウィーンには、新しいワインが出来上がる季節になると人々は郊外にあるホイリゲと呼ばれる酒場にでかけ、戸外で新鮮な空気を吸いながら新酒を楽しむ習慣がありました。こうして楽しいひとときを過ごす人々の情景が、生き生きとした旋律のなかによく表れています。
物悲しい狩人の角笛を思わせる管楽器のユニゾンによる導入に続き、活気にあふれたメロディーが始まります。途中にしっとりとしたチェロの優美な旋律や鳥の歌声を模した木管、ツィターのソロによる魅惑的な旋律などを交えながら、やがて弦楽器がゆっくりと優美な主題へと導いていきます。音楽はテンポを速めたり遅くしたり、音量を増減させたりしながら、反復されます。この間、オーケストラのさまざまなパートの楽器が主役を交替しながら奏でて、素晴らしい音色を生み出しています。コーダ(終結部)ではふたたびワルツの主題がツィターによって奏でられ、弦のアンサンブルとドラムのうねりをもって、華やかなフィナーレへとなだれ込んでいきます。