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内航海運は、船舶輸送が他のモードに比べ優位性を持っていた時代は、船舶を持っていれば儲かる時代であり、また、引当権により船舶の所有が制限されていたので、事業者はある意味一定の収益を確保しながら独占的に事業を行うことができた。したがって、必ずしも自己資本や経営ノウハウが十分でない事業者であっても、船さえ持っていれば一定の収益が見込まれ、また、引当権を担保に金融機関の融資を受け、事業を継続することが可能となっていたと思われる。一方、こうした事業者は船舶という高額な設備(注)を必要とするため、その資金のほとんどを借金でまかなうこととなり、自己資本に比べ著しく負債の多い、いびつな財務体質を有することになったものと考えられる。つまり、極めて経営基盤の乏しい個人事業主が「身の丈を超えた」借金を背負って事業を行っている状況と言えるのではないだろうか。

 

注) もっとも標準的な船型といわれる499総トン型で、建造船価4.5億円程度

 

<事実上の破たん状況の発生>

たとえ借金体質であっても、確実に収入のある時代であればさほど問題は顕在化しなかったが、高速道路の整備に伴うトラック輸送の活性化など他のモードの発展により、内航海運が確実に儲かる時代は過ぎ去ろうとしており、また、引当権についても今後無価値化することとなり、内航海運事業の経営環境は厳しくなっている。一方、特に個人事業者においては過去の儲かっていた時代の収益についても船舶の償却や積立金としての内部留保を行ってこなかったため、債務超過といった事実上の破たん状況が多く発生したものと考えられる。

 

<倒産が起こらない理由>

上記で述べたようにすでに多くの事業者が事実上の破たん状況にありながら、いまだに事業者の倒産はほとんどない。これは、零細のオーナー事業者であっても、短期の資金運用に関しては極めて強い体質を有しているためと思われる。つまり、内航海運業は、貨物を運んでいる限り収入はあり、また、船員(特に家族船員)の給与等の必要経費についても状況に応じながらかなり低くおさえることによって、直ちに手形の不渡り等の資金ショートを起こすケースは少ないものと考えられる(アンケート結果によるオーナー事業者の財務状況を見ると、負債+資本の部で、固定負債(長期借入金)64%に対し、流動負債(短期借入金等)は23%にすぎない)。

一方、長期借入金に関しては「身の丈を超える」莫大なものとなっているが、金融機関は金利さえ入れば回収の見込みがなくとも支払を猶予している状況にある。これは金融機関としても、不良債権の額を増やしたくないためもあると思われるが、むしろ、借入金の担保が「船舶」や「引当権」のように金融機関が扱いにくいものであるため担保権の執行をためらわせているせいではないかと想像される(「土地・建物」と異なり「船舶」の管理は素人では困難)。

 

 

 

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