2) 船腹調整事業のしくみと問題点
内航海運組合法第8条に基づく船腹調整事業は図3-2.に示すとおり保有船腹量の調整と供給船腹量の調整があり、それぞれ「建造調整、共同解撤」と「配船調整、共同係船」にわかれている。
製造業にたとえると、建造調整は生産能力調整カルテルであり、共同解撤は生産設備の廃棄、配船調整と共同係船は生産量や出荷量の調整に該当する。これらの調整事業の中核は建造調整であり、これが内航海運の規制緩和の対象となった。
建造調整とは、スクラップ・アンド・ビルド方式により船舶を建造する場合、それに見合う代替引替船の解撤を義務づけるものである。これにより、新船建造による船腹量の増加を抑制する。
スクラップ・アンド・ビルド制のもとでは、新船を建造しようとする者はスクラップが必要になるが、必要なスクラップを自身で用意できない場合は他人の所有するスクラップを購入しなければならない。このスクラップのことを「引当権もしくは引当資格」という。引当権は、持つ者と持たない者との間で直接売買されるが、その価格は需給関係によって変動する。引当権は個々の船舶に付随するものであるから、内航海運事業者にとっては含み資産となる。そのため、船舶建造資金等の調達にあたっては、金融機関がこれを担保として認めているため比較的容易に融資を受けられる。
このように引当権は内航海運事業者の資金調達を容易にしているが、その一方で資金の内部留保による自己資本の充実を図る必要性が薄れるとともに、収支悪化でも経営維持できることから放漫な経営になりやすいという弊害も生じている。
さらに、新船を建造しようとする者(内航海運への新規参入者、事業規模拡大を図る者など)は、新船建造に要する資金に加えて引当権購入資金が必要となり、投資額が多大になる。このことから、新船建造が阻害され、内航海運業全体の活性化が損なわれていると考えられる。スクラップ・アンド・ビルド制度の問題点を整理すると、表3-1.のとおりであるが、これらの問題点を解消し、内航海運業を活性化するために規制緩和が導入され、「内航海運暫定措置事業」が実施された。