顕著な例外は、現在のところ排他的経済水域(EEZ)を主張していない中国である。そうしないことによって、中国は近海に対する主張によって引き起こされた、すでに混乱し危険な状況が一層拡大することを回避している。1992年2月、中国は領土に関連して定義された接続水域法を制定した(17)。領海は距離12海里以内とし、南沙諸島を含むとした領土から12海里の更に外側の12海里までを接続水域と定義している。1993年3月、ニューヨークに籍をおくBarrows社(全ての原油産出国の英訳された原油法の完全なテキストを出版)は、中国地図の南沙諸島部分を点線で囲い、南シナ海における中国の主張範囲(18)を示す改訂を行った。
中国の主張は、緯度経度によって正確に規定されたものではない。それは南シナ海の島々に対して排他的主権を示す最大限の交渉姿勢の性質を表したものである。中国の研究者である Zhiguo Gao によれば:
…境界線の法的根拠はほとんど明確にされていない。中国の文書を注意深く研究すれば、中国が南シナ海の海上全てに対して主張したことは一度もないが、その主張は、線内にある島々とそれらの周囲の海域のみに対するものであるということが明らかになる。したがって、中国の地図にある境界線は従来のセンスでいう海上境界線ではなく、単に島の所有権の範囲を示す線を描いているにすぎない(19)。
海洋法条約は、海上境界線と近隣国間で共有する海洋からの利益に大きく目を向けさせることによって、各国を協力体制に導こうとしたが、一方では、主張の対立と境界線論争による新しい緊張点も作り出した。すでに述べたように、東アジアの周辺海域のような海域では、海上境界線の設定は非常に困難な問題である。これは「不安定さを促進するよう運命づけられたような国際海洋法の1つの領域」である(20)。各国が、主張が重複する隣接あるいは向き合う国家に対して一方的な主張を行うことを控えることは通常望ましいことである(21)が、海洋法条約はこの件に関してはほとんど役に立っていない:
条約は、領海と排他的経済水域(EEZ)についての最大値を詳細に記述することによって、1つの最優先の要素を設定している。しかしながら、単に外側の範囲を設定するだけではあまりにも基本的にすぎる。条約の不備は、近隣諸国の主張する海域が重なり合っている場合、どのように考慮をすべきかの要素が記述されていない点にある。それは、二つの国がお互いが400海里以内の距離にある場合の、比重をおくべき適切な要素を確定するための細部が規定されていない(22)。
現在、かつてそうであったよりも更に多くの境界線が必要とされているのみではなく、関連する原則もさらに複雑になっている。国際司法裁判所(ICJ)は、「公平の原則」を海上境界線の画定に関連する判決に適用するとしているが、公平を判定する際に考慮すべき要因を挙げたり定義することは拒否している(23)。