当該論文の位置付けと要旨を下記に掲載します。論文の全訳はこのあとの頁にございます。
第30章 北東アジアの排他的経済水域と海上の境界線確
法的行き詰まりとこれを打開する機能的アプローチ
白珍鉱(韓国外務部)
(うみのバイブル第2巻掲載)
1. 論文の位置づけ
この論文は96年4月のクアラルンプールにおけるCSCAP会議への韓国からの提出論文である。提出当時の筆者は韓国政府外務部外交安保研究所の海洋法の第1人者であり、ここに述べられている見解は政府の見解と見なしてよいと思われる。発表時には会場からは特に反論はなかったという。
筆者のJin-Hyun Paikソウル大教授は、最近(論文提出の翌年の97年)、8年間勤務した外務省から大学へ移籍した(1997年)ばかりの新進気鋭の海洋法学者であり英語が堪能である。彼はソウル大学に新設された国際問題・安全保障研究所の創設メンバーであり、本人が語るところによると「今後10年間は国が力瘤を入れているこの研究所で自由活達な研究に励むことができるだろう」とのことである(6月談)。英語が堪能であり、6月にはロシアでの国際会議にも出席したPaik教授の法学者としての国際的な影響力は決して無視できないとおもわれる。彼の発言については良く理解したうえで反論すべきは反論するというのが、われわれ日本側のなすべき第1歩であろう。
韓国は「200カイリ経済水域」時代を迎え、農水関係省を改組し体制の強化を計った。しかし、もとより、日露中に囲まれた韓国自体の水域が、いかなる議論によっても大幅に拡大する可能性がないことはあきらかである。
この論文は、北東アジアにおける海上の境界線画定問題に関する、雑多な見解を法的な立場からあざやかに交通整理してみせている。その方法は「要約」に示した通りであるが、方法な多数提示されているものの、いかなる具体的な解決方法を支持するものでもない。むしろ、法的な検討の概要を論じた上で、そのいずれもが、現実世界においては不毛な議論に終わる可能性を指摘しているのである。
論文は、最後に、地域の情勢複雑であり、沿岸諸国がゴリゴリの法解釈よりも、むしろ機能を主体とするアプローチを好むのではないかとの判断を示しているのは、筆者の柔軟性の現われであろう。すなわち、漁業問題や環境保護、資源開発を優先するための共同政策を各国が推進し、主権や境界線問題への背伸びは控えるのではないかとみるのである。その結果、各国は、そりあえず管轄権問題を棚上げし、沿岸諸国は海底鉱物資源開発などの協力協定をつくりあげるのではないか。このようなアプローチこそが地域においては建設的であると思われると評価している。