海洋管理の観点から言えば、排他的経済水域は資源管理の集権的システムを可能にするため、より合理的で保全指向の管理システムにつながる。海洋資源を沿岸諸国に配分し、その管理の権限を与える場合には、沿岸諸国が自国の管轄権において資源を十分に保全・管理する強いインセンティブが与えられ、その場合の各国の管轄権の根拠は、かかる保全・管理を遂行する際、沿岸諸国は実際に自国の国益以外のものを追求するものではない、と考えられていたのである。国連海洋法条約で排他的経済水域という考え方が導入される以前は、資源管理問題の原因は沿岸諸国の魚種管理の欠如にあるというのが一般的な認識であった。したがって、この考え方は海洋管理、特に漁業管理の大きな前進を意味したのである。
しかし、このような期待が実際に実を結んだかどうかはまだ定かではない。実際は、科学的データが示している通り、沿岸諸国に200海里水域の管轄権を与えるという方法は、資源管理・保全問題解決には有効ではないのではないか、という懸念が高まっているのである。例えば、国家の管轄権の拡張は外国による乱獲を削減したが、国内の乱獲については削減するに至っていないのである。他方、多くの国家は、投資、ノウハウ、および拡張水域の海洋資源をフルに利用する能力・意思を欠いているため、排他的経済水域の生み出す新たな機会の利益を享受できないでいる。
排他的経済水域のもう一つの問題は、このアプローチの結果、諸国家の水域間の境界あるいは排他的経済水域外の境界の魚種に関する管轄権が分断されてしてしまうということである。管轄権分断は効果的な管理を妨害するのみならず、関係諸国家の負担を増大するものである。この問題は黄海や東シナ海のような半閉鎖海で最も深刻になる。なぜなら、これらの地域では海洋生物資源は隣接する諸国家の領海を越えることが多く、したがって国家による排他的な資源管理・保全は不完全なものとなり、場合によってははなはだ不十分なものとなる。境界設定問題の扱いにくさの他にも、半閉鎖海の接する諸国家の大多数が排他的経済水域宣言に消極的であった理由はまだある。
資源管理
漁業国家の排他的経済水域に対する消極的態度の第三の理由は経済的なものであり、資源管理・利用の問題に関連している。漁業に関して言えば、もし200マイル排他的経済水域の時代が同地域で確立すれば、日本はいくらか苦しい立場に陥ることになるが、他の沿岸諸国のバランスシートはそれほど影響を受けないであろう。しかし、排他的経済水域が多目的水域であることを考えれば、このような推定は単純過ぎるし、排他的経済水域の沿岸諸国への影響の分析としては不十分である。一つ言えることは、既に述べたが、排他的経済水域導入によって、大陸棚の資源を巡る日本対中国・韓国の争いにかなり拍車がかかるであろう、ということである。当事国の損益はそれぞれの必要に応じて単に相対的なものとなろう。沿岸国が敢えて同地域の現状を覆そうとしてこなかったのは、こうした理由からであろう。