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・船舶燃料の単価が大幅に下落する

・東アジアで石油需要が拡大する

・環境問題に対応するための基金とするために、アセアン諸国がマラッカ海峡通過税を課金することを決める。

 

最初の二つの場合、船主は通常、マラッカ海峡より水深の深い航路を航行する船をシフトさせて、ロンボク海峡経由で長い航路を航行させるだろう。なぜなら、中東-東アジア航路のスポット傭船による利益は、船舶当りの積載量が多いゆえに、航海日が3-4日延びることによる燃料費の増加を補って余りあるからである。三つめの場合、荷主に請求する運賃が政治的な理由によって高くなることを嫌って、多くの船主はロンボク航路に航路変更するであろう。どちらの場合も、船主は、自分の採算性に影響を与えるマーケットの状況に基づいて意思決定したわけである。

 

4. 教訓と示唆

 

海上輸送業界の反応は、航行時間が長くなるために業務が遅れるだけなのか、市場へのアクセスを閉ざされるのかによって決まる。ホルムズ海峡という例外を除くと、SLOCは全般に前者の範躊に当てはまる。南東アジアのSLOCとスエズ運河を通して貿易と輸送の両面での方法論的な分析を本論でおこなった結論は、次のようになろう。即ち、航路変更による積載量増加の需要に対応する十分な船積み能力があるならば、封鎖による運賃の値上がりは、閉鎖された地域外の経済においては、無視しうる額であり、輸送コストが高騰したからといって貿易に係わる経済活動が中止されることはありえない。このことは、1956-7年と1967-75年のスエズ運河閉鎖においても、実際に検証されている。どちらの場合も、経済面での理由に基づく他国からの侵入圧力はかからなかった。なぜか。答えは簡単である。傭船マーケットは、世界の経済機構に対して、必要な商品を最低限の追加コストで運ぶのに必要な船舶を供給することで対応したからである。

にもかかわらず、将来にわたるSLOC防衛の使命に関する現行の議論からは、この歴史的教訓が明らかに欠落している。議論に欠けているのは、経済原則(特に海洋経済)に関する基本的な理解である。矯正手段は、海洋経済を研究することでもなければ、傭船業界における基本認識をもつことでもない。むしろ、海上輸送に混乱が起こったとき、傭船業界が果たす中心的な役割を認識すべきなのである。混乱時、軍事参謀や政策立案者にとって重要なことは、商業海上輸送の専門家に相談し、正しい質問をすることである。正しい質問というのは、どのようにして、より実際的なセキュリティの計画、ポリシー、プログラムを展開していくかということである。

 

注1:National Defense University, “Chokepoints: Maritime Economics Concerns in Southeast Asia”, Washington, NDU Press, 1996

 

 

 

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