結び
以上、平時における海洋国際法の現状及びその範囲内での「軍艦」の地位、権限等について述べた。第二次大戦後の三次にわたる国連海洋法会議の結果、1982年に「海洋法に関する国際連合条約」が採択されたことで、海洋の区分の変更、沿岸国の権限の拡大、環境保全、資源保護等新しい海洋の秩序への移ることになったが、「軍艦」そのものの権限等については従来からの慣習国際法をほぼ踏襲していることをご理解頂いたかと思う。
冷戦終結後、米国もロシアも、脅威の変化、財政上の理由から、海軍力を削減してきた。他方、中国・台湾・韓国・タイ・シンガポール・インドネシア・マレーシア等アジア諸国は、総じて海軍の近代化を目指している。このことは、海洋に拡がる主権、管轄権を維持するために、その必要性が高まってきている証左である。
国連海洋法条約の発効は、海の平和と安定を目指して、包括的な法秩序を構築するための基盤となるものだが、総論賛成でも、境界線の画定など各論においては、国の利害が対立することもある。もともとこの条約は、領土紛争を解決するための国際法ではないため、そうしたケースは増加することも考えられる。
また、条文の内容が暖昧であったり、複雑であったりして、解釈に差を生ずる可能性のある項目もある。本条約の批准に当たっては、留保条件を付することは許されてはいないが、一方的な解釈宣言までは禁じていないので、解釈の違いによる混乱が生ずる恐れも少なくない。
わが国としても、境界線の画定など周辺諸国との外交折衝も重要であるが、主権や管轄権の及ぶ広大の水域の管理を、効果的に実施するための国内法の整備と装備の充実、特に海上保安庁の能力を効果的に補完するようにするための、自衛隊の法体制や両庁の協力態勢を整えることが必要とされているのである。
また、資源の管理や環境の保護の観点から見ると、国の境界線を超えて問題を処理しなければならないことが予想される。つまり、国際的な協力が絶対に必要になってくる。こうした国際協力の体制については、具体化されていないため、実効性のある体制整備を進めていくのが今後の大きな課題となっているのである。