しかしこれには、厳しい制約が課せられている。先ず通航とは、原則として「内水に入ることなく」「領海を通過する」か、「又は内水に向かって若しくは内水から領海を航行すること」と定義されている。「通航は、継続的かつ迅速」でなければならず、緊急時等を除き投錨や停船は許されない(第18条)。
また無害とは、「沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない」ことである。国連海洋法条約は、武力による威嚇若しくは武力の行使、武器を用いての演習又は訓練、情報収集活動、宣伝活動等12項目に亘って無害通航と認められない活動を具体的に規定している(第19条)。また、潜水船などの水中航行機器の水上航行も義務づけている(第20条)。
軍艦も無害通航権を有するが、現実には、事前の許可申請若しくは事前通告を要求している例が少なくない。
二つの国が向かい合っているか又は隣接しているときの領海の境界画定については、一般原則として「等距離(中間線)原則」が採用されており、後述する排他的経済水域及び大陸棚の境界画定の一般原則とは考え方を異にしている。
(5) 国際航行に使用される海峡(国際海峡)
一般的に国際海峡とは、外国船舶が通航のために使用する海峡であり、国際法上どの海峡とどの海峡を国際海峡とすると言うふうに特定されているわけではない。1958年の領海条約では、国際海峡の通航について、16条4項で規定したに過ぎなかったが、1982年の国連海洋法条約では、第3部に12箇条の規定が盛り込まれた。
これらの規定は、領海12海里の採用に伴い、殆どの国際海峡が領海化し、また群島水域の採用により若干の国際海峡が群島水域化することに対し、第三次国連海洋法会議において多くの海洋国、海軍国が12海里領域及び群島水域を認める替わりに、領海及び群島水域の通常の通航制度より自由な通航制度を認めるよう、強く主張した結果認められたものである。
国連海洋法条約の第3部に規定する通航制度が認められる国際海峡とは、あくまでも領海に含まれる海峡であり、公海の航路又は排他的経済水域の航路が海峡内に存在する海峡や、特別の国際条約によって通航が規制される海峡(ダーダネルス・ボスポラス海峡等)には適用されない。
日本の領海法(1977年7月1日施行)は、この条約の批准に伴い、その一部が改正され、名称も「領海及び接続水域に関する法律(1996年7月20日施行)」となったが、基本的には一貫して領海幅12海里を採用している。しかし宗谷海峡・津軽海峡・対馬海峡東水道・対馬海峡西水道・大隅海峡の5海峡については、「特定海峡」と称して当分の間領海幅3海里と規定しているため、海峡内に公海の航路又は排他的経済水域の航路が存在する海峡となり、国連海洋法条約第3部に定める国際海峡における通航制度は適用されない。