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船舶起因には、船舶からの油、ビルジ、残飯等の海上投棄の他、沈没・坐礁による油汚染がある。陸上・河川からの汚染には、工場排水、都市下水、産業廃棄物やゴミ、し尿の垂れ流しがある。大規模な干拓、沿岸地帯の開発も大きな汚染原因となっている。海底油田の開発が活発となれば、原油流出の危険性も増大するだろう。

これら海洋汚染は、船舶であれば旗国が取り締まるべきものではあるが、国際的な監視態勢が必要との見解から、多国間での検討が試みられている事例もある。

近年、獲る漁業から、作る漁業として養殖が盛んとなっている。養殖漁業は漁獲量の落ち込みを補う形で世界的に普及しつつあり、現在は世界の食用魚介類の22%は養殖によるものとなっている。今後15年間で40%にまで増加するとの見積もりがある。しかし、短期養殖のためには大量の餌が必要となる。大量に撒いた餌が腐敗し養殖魚が病気とならないように、抗生物質が予防投与される。養殖ネットヘの貝や海草の付着を防ぐため、有機スズ化合物が使用されている。沿岸海域は抗生物質や有機スズ等で汚染され、腐敗した大量の餌は赤潮を発生させている。環境に考慮を払はない養殖が増大すれば、食物連鎖と生態系を狂わせ、さらには海洋の持つ浄化機能を喪失させ、海洋環境の破壊を加速する危険性がある。化学肥料と農薬を大量に散布する農業が見直されたように、漁業においても、環境を守り自然の中で栽培するといった考えが必要になっているのではないか。

漁業資源が危機的状態となっても、それでも増大する需要から、より可能性のある漁場を求めて世界の漁船が殺到している。魚の採れる海域は限られている。ほとんどの漁場は、どこかの国の経済水域の中である。「遠洋漁業」は、「他国の沿岸における漁業」と表現した方が適切なのである。

食糧資源に限らない、石油等のエネルギー資源を求めて海底へのアクセスが本格化してくるであろう。海底油田からの原油の流出等は、海洋環境を壊滅的に破壊するであろう。

国連海洋法条約の発効により、排他的経済水域や大陸棚等の海域においては、沿岸国が資源の管理や環境の保護に関する管轄権を持ち、その中で一定の義務と責任を遂行することなったが、全ての沿岸国に、適切に海洋資源を管理し、環境を保護する能力があるとは限らない。むしろ、ほとんどの国に完全な能力はないと考えた方が適切なのではないだろうか。

また、伝統的な海洋利用国と管轄権を有する沿岸国との間で、海洋利用の権利を巡って、海洋法条約を無視しての争いが生じる危険性すらある。

食糧やエネルギーの不足する事態が予測される中で、海洋資源確保の焦燥感が近年顕著となっている海軍力増強の動きを加速し、それが各国にセキュリティー・ジレンマを生じさせ、さらにはナショナリズムを高揚させて海洋資源を巡っての対立の構造を生み出すことも十分に考えられる。

海洋においても、持続可能な海洋資源の利用と地球生命の維持に必須の海洋環境の保護のための安全保障措置が必要となっている。海洋資源の乱獲と環境破壊を防止するための適切な海洋利用のレジームを作り、その中に地域の各国を引き入れ、そのレジームを厳格に履行していくための方策を検討することが必要である。それが、海洋資源・環境を保護し、また海洋資源を巡って紛争を未然に防止するものとなるのである。

 

 

 

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