第4部 資料編
第1部 海洋の総合的管理と国連海洋法条約
第18章 海洋の総合的管理と安全保障
小西岑生(元自衛艦隊司令官)+秋元一峰(防衛研究所主任研究員)
(うみのバイブル第1巻掲載「海洋資源と環境保護」改題)
1 資源・環境安全保障と海洋
(1) グローバル・トリレンマ
「グローバルトリレンマの克服、成長-資源-環境」をテーマとして1996年10月7-8の両日、東京で「第4回地球環境経済人サミット」が開催された。当サミットは、地球環境の保護と持続的発展に関するアジェンダ21が発表された翌年の1993年から続いているものであり・成長-資源-環境のトリレンマを克服して、豊かで活力ある社会の継続と地球環境の保護について活発な討議と具体的な提唱がなされてきている(1)。
発展途上国の経済成長・地球規模の経済活動と開発、生活の豊かさの向上、一部の貧困国に見られる爆発的な人ロ増加等が、資源乱獲と環境破壊をもたらしているといわれる。
地球砂漠化の速度・気温上昇の速度、南極のオゾン・ホールの拡大等は、毎年のように観測史上最高記録を更新し続けている。資源の乱獲と環境の破壊は、やがて資源を枯渇させると共に、人類の生存だけでなく、地球のシステムを維持することすら困難な状態に陥れる危険性がある。そもそも、資源と環境の問題は、持続可能な限界を超えた資源の利用と開発・発展によってもたらされるものである。現在の資源・環境の問題は、単に人間の生活・行動様式を変えれば解決できるといった段階のものではない。経済活動に競争の原理が働き、より豊かな生活への希求があり、常に発展することを義務づけられている現代文明社会において、成長-資源-環境のトリレンマ克服のための国際的な管理態勢が必要となっているのである。
推定50〜100万人の犠牲者と100万人を超える難民を発生させたルワンダの内戦(1994-1995)は、隣国ザイールやタンザニアを巻き込み、国連平和維持活動を必要とされるまでに拡大した。もともとのルワンダは、「アフリカのスイス」と呼ばれるほどの景勝地で、マウンテンゴリラの生息地としても有名であった。国の東部はツチ族支配の牧草地帯、中央部は肥沃な土地が多くフツ族が農耕を営んでいた。国の西部は山岳地帯で、ザイールと国境を接している。ルワンダの人ロは1950年代には200万人程度であったものが、1980年代には600万人、1990年代は800万人と、爆発的に増加していった。一人当たりの農地面積は1/3にまで減少し、農地と食糧を求めて部族の移動が始まった。食糧資源の乱獲、牧草地や山岳地帯の農地化がやがて環境を破壊し、食糧資源の枯渇を加速させていった。それと歩調を合わせるように、フツ族とツチ族の部族間の争いが激化していくこととなる。
ルワンダの内戦は、資源枯渇と環境破壊によって引き起こされたものといえよう(2)。成長-資源-環境のトリレンマの典型でもある。同じような例は、エチオピア、ソマリア、ハイチ、エルサルバドル、バングラディシュ等でも見ることができる。今は貧困国の国内問題として扱われているが、いずれ国と国との争いを引き起こす原因となっていくことも十分に考えられる。