日本財団 図書館


海賊による被害防止には、沿岸国、利用国を問わず各国の自発的な取組みが不可欠であるが、沿岸国の中で本格的な対策を講じることができるのはシンガポールだけである。残念ながら他の沿岸各国は、それぞれ経済的、あるいは政治的な混乱に直面していることもあって、自国の領水内で海賊行為を防止し、抑圧するに必要なインフラの整備すらできる状況にはなく、このような弱点を突いて海賊行為はますます活発化するという状態が続いているのである。一方、我が国の状況はどうであろうか?巡視船はともかく、自衛艦を海外に派遣する場合、常に国内政治上の制約が伴うことはご存知のとおりであるが、もし派遣されたにしても、現在の法制のままでは、その活躍をあまり期待できそうにない。国際法上、海上自衛隊や海上保安庁の艦船が公海上で海賊を逮捕することは可能であるが、現在、国内に海賊に対する処罰規定が刑法上ないため、たとえ海賊を捕らえても釈放せざるを得ない。まさに、昨年三月北朝鮮の工作船を取り逃がした事件と同様に、法律の不備のため海賊をみすみす取り逃がすような事態が生起するおそれがある。政府は、海賊の取締りを可能とする法律の制定や海賊と遭遇した際の対処の要領を定めた規定(ROE; Rule of Engagement)の策定を急ぐ必要があるだろう。

 

今後の対策

 

個々の船舶の自衛策については、船内の監視、警戒システムの改善、自動警報装置(シージャック・アラーム)の搭載など様々な対策が進められており、能力の向上が期待できる。沿岸各国が自国の領水内で海賊行為を防止し抑圧するために必要なインフラ整備のための技術、経済両面で利用国による支援は不可欠であるが、同時に、沿岸各国に対して、警備能力の向上や海賊被害に関する報告手続きの簡略化を求めることも必要であろう。今回のレインボー号事件で明らかになったことは、国際犯罪組織による海賊行為に対しては、従来の法規や枠組のままでは有効に対処できなくなり、緊密な国際協力が必要なことであった。今後の海賊対策の重点は、一国のみによる対処ではなく、情報交換、共同パトロール、事件発生時の共同対処要領、検挙した海賊の処罰などの面における国際協力の体制づくりに置かれるべきであろう。そのための法制面の枠組においては、シージャックの取締りに関する国際協力を定めた一九八八年のローマ条約が根幹になり得る。情報交換については、現在利用されているIMBと外交の両チャネルに加えて、各国関係機関をつなぐホットラインの設置や国内における情報を一元的に管理する情報センターの設置が不可欠である。沿岸国の警備能力を補完するため利用国と沿岸国双方による共同パトロールについて、いろいろな案が出されているが、これについては日本でも研究が進んでいる。防衛庁防衛研究所の秋元一峰主任研究官らのグループが進めている海上防衛力を活用した海洋安定化のための貢献策についての研究「海洋の平和維持活動(オーシャン・ピース・キーピング=OPK)」3がそれである。広大な海洋でのパトロールには海軍力の参加が不可欠であり、海を通じて連帯感を持つ各国海軍の協力が望ましいとして、利用国の艦船に沿岸諸国の警備当局者が乗船して、実際のパトロールや取締りに当るなどの案が検討されている。パトロールは、特に窃盗・掠奪型の海賊行為を抑制するうえで効果が期待できる。シージャック型の海賊に対しては、これまで以上に緊密な国際協力が必要であることはすでに述べたが、この新しいタイプの海賊に対処するには我々にも新しい戦術の開発が必要である。海賊対策を有効たらしめるには、海賊を百パーセント検挙し、処罰する体制とそれを可能とする法制面の整備が不可欠である。逮捕・処罰こそが海賊撲滅の鍵であることを忘れてはならない。

海賊は、乗っ取った船を必ず陸付けする。偽装や積み荷の処分を行う港湾施設を探し出して急襲すれば、海賊の逮捕や証拠の収集上、最も効果的であろう。 行方不明になった船に、衛星を使って探し出せる発信器を乗組員にも知らせずに積みこんでおけば有効な海賊対策になるものと信じる。

 

3「うみのバイブル2000(上)」第5章、布施勉教授講義の質疑応答セッション参照

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION