17:みんなで「まだ形がないもの」を作り上げる
小川 何か新しいレジームをこれから作っていくのですから、できあいの物事を教えるというのはなくて、切磋琢磨しながらみんなで「まだ形がないもの」を作り上げるという場を提供しているということは非常に素晴らしいし、羨ましいと思いました。
それから、去年(99年)、オーストラリアのウーランゴン大学に川村さんと行きましたが、Sam Bateman教授のもとで海事研究センターが運営されており、そこでもバングラデシュやマレーシアの大佐クラスが一緒に切磋琢磨しているのを目撃しました。あちらでは、一夕、アジア各国から勉強にきている海軍軍人のみなさんと杯を傾けましたが、そのようにして形成される人脈の深い意味あいと、人脈づくりのノウハウは大いに学ぶべきだと思いました。
18:教育的な方針の裏には現政権の政策が流れている
川村 教育的な方針の裏には現政権の政策が流れています。例えば、中国問題ひとつとっても、クリントン政権の路線がはっきり出ていると感じました。APCSSの教育方針は、共和党政権の政策とは明らかに違います。APCSSは、米太平洋軍司令部を直接のスポンサーとしているので、現政権の政策を色濃く反映しているのは当然でしょう。それを、相手に強制することなく、非常にうまいやり方で教育している。センターの性格の基本が、そういう点にあることをひとつご理解いただきたいと思います。
後日、East West Centerのバレンシア博士と会って話をする機会がありまして、その件は別途報告しますが、バレンシア博士によると、彼が所属するEast West Centerは、ソ連のルムンバ大学をモデルに造られたといっていました。この大学はモスクワにあって、世界中の共産圏の学生を集めて教育した。これに対抗して、ハワイにできたのがEast West Centerだという話をしてくれました。時代の変遷とともに教育の内容も変わってきておりますが、政府の予算で教育をやってきたEast West Centerも、今ではばっさりと予算を削られ、職員も数も激減しているということです。
現政権の政策と密接に関連した教育機関は、ハワイにおいては、どうやらEast West CenterからAPCSSのほうにシフトしているという認識をわたしはもちました。
小川 そうですね。アメリカでも、ワシントンとかよその大都市であれば、政府以外の民間企業の金とか、緊急の金もつくと思うんですが、ハワイというのは産業としては何もないところですから、100%政府におんぶにだっこということですね。そうすると、時の政権の意向にはやはり左右される。それから安全保障関係はずっと予算が削られて続けているわけですが、それと裏腹に、どうもいま、まさに、安全保障関係の新しいレジームを作るために、15〜20年先にリーダーになる人たちをお互い友達にする必要がある。せっかく、将来のリーダーを集めるのですから、そこに芯の通った考えを一本通すことが必要だと痛感しました。