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以後の中国はこれらの軍事施設を拠点として、南沙諸島支配を固め、南シナ海を文字通り「中国の海」とすることに力を投入している。中国海軍は一方で紛争の「平和解決」を主張しながら、当事国2国間の交渉に固執し、国際会議を開いて多国間協議による解決に反対している。中国は領土問題の「棚上げ」、海底資源の「共同開発」を主張しながら、他方で海軍力の成長とともにそれを誇示し、あるいは実力を行使している。中国の主張する「共同開発」は、南沙・西沙その他の島嶼は中国の領土であり、南シナ海は中国の「歴史的水域」であるとの立場を前提にしている。その他の沿岸諸国に領有権あるいは管轄権は存在しないのであり、中国は南シナ海の島嶼を実効支配からこそ、「棚上げ」による「共同開発」あるいは「平和解決」を主張しているのである。

1994年8月中国との国境交渉を終えベトナム外務次官は、わが国の『産経新聞』記者とのインタビューで、「中国の意図は南沙諸島の共同開発の名の下にベトナム領内での開発を正当化することにあり、あなた(記者)のポケットのなかの100ドル札を握っている相手から『一緒に食事しよう』と誘われて、その提案に応じますか」と答えている。沿海諸国が「中国の脅威」を感じ、不安感を抱いて、軍事力の強化、兵器の近代化、外国からの兵器の購入に奔走するのは、当然のことであろう。

 

2.4.:中国は軍事力を行使するか──威嚇手段としての海力軍

 

南沙諸島でベトナムとの軍事紛争が起きる数か月前の1987年10月に、中国海軍は西太平洋から南沙群島におよぶ広範囲な海域で軍事演習を実施した。演習を指揮した艦隊司令官によれば、「将来の海戦作戦水域は主として大陸棚・排他的経済水域にあり、演習は大陸沿岸から比較的遠い特徴に合わせて、水上艦隊の中・長距離協同作戦意識を高めるために実施され」、「それによって中国海軍が沖合・遠洋での協同作戦能力を有していることが証明された」。また紛争後の1988年5月に中国軍機関紙『解放軍報』は、「1980年代に入ってから中国海軍は軽視できない遠洋航海協同作戦能力を持つようになり、近海ばかりでなく、大陸から数百海里離れた南沙群島でも国家の領土と主権を守る責任を果たすだけの能力を保有している」と主張した。中国は南シナ海沿岸諸国に対して、それらの国が占拠している南沙群島の島嶼を攻略できる軍事能力を保有しているとの確固たる態度を示した。

中国の軍事力は米露に比べれば後れているが、中国周辺海域諸国のなかでは中国が最も強大な軍事力、とりわけ海軍力を保有している。中国は周辺海域で自国の目的を達成するためには小規模な紛争を起こすことを恐れていない。しかしながら中国は大規模な戦争に訴えてまで周辺の海域を支配することはないであろう。「強力な海軍力を保有してはじめて、政治および外交手段により問題を解決し、『戦わずして敵を屈伏させる』可能性が生まれる。威嚇効果がない場合には、実際に打撃を有効に加えることができる」と中国海軍の指導者達は論じている。中国は海軍力を政治的威嚇手段として使うことを考えている。

ヴェトナム南部沖合の南沙諸島海域の支配を固めた中国は、1992年5月ベトナムが自国の大陸棚・排他的経済水域と主張している海域(万安灘)に石油鉱区を設け、米国の石油企業に探査・試掘の認可を与えた。

 

 

 

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