鉱区は南シナ沙諸島の西端で、ベトナムが設置している石油鉱区の東側に隣接しており、南シナ海を通るシーレーンを塞ぐ形で設定されている。そして石油探査・試掘認可を与える際、中国は米国石油企業に対して作業が妨害されないよう海軍力による保障を約束したといわれている。この情報の信頼性は、その直前の4月21日中国海軍司令員張連が中国海軍は自国の海洋領土と海洋資源・権益を守ると明言していること、同5月1日付け『解放軍報』が第1面冒頭で、海軍の高速ミサイル艇が編隊訓練を実施して南シナ海の石油開発を防衛していると写真入りで報道していることから裏付けられる。中国は将来、ヴェトナム海域の万安灘とフィリピン海域リード・バンクの石油、マレーシア海域祖母暗沙の天然ガスの開発を意図していると考えられるが、中国は戦争に訴えることなく、脅しをかけることにより、周辺諸国に対して、軍事報復を受けるよりも手を引いた方が賢明であることをわからせることを狙っている。他方周辺諸国も経済成長の過程にあるから、石油をはじめとする資源に対する欲求は強く、紛争が起きる可能性はつねにある。
その脈絡で、中国が西沙諸島の主島・永興島に本格的な飛行場を整備し、さらに南沙諸島のミスチーフ礁にかなり大規模な海軍施設を建設しつつあることは注目される。永興島に1988年前後の約1年間に、中国が長さ2600メートルの滑走路を完成したことについては、筆者はY紙のH記者と衛星写真で突き止め、1993年8月同紙にカラー写真入りで報道したことがある。その後ここにはF7(殲7)戦闘機が十数機常駐しているとの情報があったが、最近筆者は航空機で上空から撮影したこの滑走路の写真を見る機会をえた。4棟の格納庫がはっきり写っているから、1個飛行隊(20機以上)は十分に駐屯できる。中国がロシアから購入し、目下ライセンス生産しているSU27制空戦闘機をはじめ、あらゆる種類の航空機が離発着できる。この島には数年前から軍人の宿泊施設とみられる新しい建物、海水から淡水を作る施設、農場・果樹園・豚や家禽の飼育場等々、さまざまな施設が次々と建設されており、1999年には滑走路両側の側溝で集めた雨水を地下タンクに浄化・貯蔵する施設が完成したと報じられた。小さな島であり、さらに海南島から300キロメートル、中国大陸からはその2倍以上離れているから、補給一つをとっても簡単ではないが、大規模な軍事作戦は到底できないとしても、小規模な紛争、あるいは平時における哨戒活動、軍事演習、漁業その他の民間活動支援、とりわけ大陸から離れている南沙諸島に対する影響力の行使を考える時、その価値は大きい。なおこの滑走路が造られたほぼ同じ時期に、南沙諸島の6ヵ所のサンゴ礁に拠点を建設していた事実を考えると、中国の海上輸送能力・土木能力は、わが国と比較すれば低いとしても、相応の水準に達していると見る必要がある。
他方1998年末から99年初頭にかけて、フィリピンのミスチーフ礁に、中国が鉄筋コンクリート製の永久施設を建設していることが報道された。フィリピン国防省が公表した施設の写真は3枚で、どれも異なる建造物であるところから、3ヵ所に建設されていることになるが、さらに別の1ヵ所にも同じような施設が建てられているとの報道がある。1988年にヴェトナム南部沖合の南沙諸島海域に進出して以来中国が実施したことを考えられるならば、ミスチーフ礁でも中国が永久施設を建設することは十分に予想できた。ミスチーフ礁はほぼ円形のかなり大きな環礁(東西約8000キロメートル、南北約6500キロメートル)で、その内側の4ヶ所に永久施設が作られることになる。整備すればいずれ中国海軍が保有するであろう航空母艦の停泊も可能である。