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またソ連から雑音の低い「キロ級」潜水艦(3,000トン)4隻、かつて米海軍空母が恐れた「サンパーン」巡航ミサイル(射程150キロメートル)搭載「ソブレメンヌイ級」(7,500トン)2隻を購入している。また「飛豹」と呼ばれる戦闘爆撃機が海軍に配備されている。

建国当時ほとんどゼロに近かった海軍力が短期間に構築された背景には、有限の財源・資源を重点的・集中的に配分してきた中国の政治的特質がある。中国は国民総生産、国家財政規模、主要工農業生産・鉱物資源生産において、1人当たりでみると小国・後進国であるが、全体でみるならばいずれも世界のベスト5、あるいはベスト10に入る経済大国である。中国のような独裁的な政治権力の国家においては、国力を1人当たりの水準で論じても意味がない。そのような観点に立つならば、次の中国海軍発展長期計画は単なる青写真でなくなってくる。

中国海軍の複数の指導者あるいは文献を総合すると、中国海軍は1] かなり大きな作戦半径を持ち、周辺海域で作戦できる能力、2] 独立した制海・制空能力、3] 強力な即応能力、4] 強力な水陸両用能力、5] 一定の核威嚇能力を保有することを目標とし、中国の経済力・技術水準に応じて、1] 西暦2000年までに、各種組織機構、学校・研究単位の基礎を築く一方、陸上発進の中距離航空機と攻撃型潜水艦を主要な攻撃力とし、ヘリコプター搭載中型水上艦艇を指揮・支援能力とする。2] 経済力・技術水準の発展にともない、2000〜2020年の間に、何隻かの軽ヘリコプター航空母艦を建造する。兵力規模は主要海軍大国に近付き、作戦能力は中国海軍が管轄する海域で戦役・戦術行動できる水準に達する。3] 2020〜2040年には、兵力規模は主要海軍大国に相当し、技術装備はその時点での先進水準に達する。航空母艦を核とし、対空・対水上艦艇・対潜水艦作戦能力を持つ水上艦艇と潜水艦を配備した機動部隊を保有する計画を遂行している。

ではそのような海軍力を構築する目的は何か。中国は伝統的に中国大陸周辺の海域を「中国の海」とみており、1982年?ケ小平により海軍司令員に抜擢された劉華清(後に中共中央政治局常務委員兼中央軍事委員会副主席として、江沢民軍事政権の中核として活躍した)は、中国海軍の任務は中国陸地面積の3分の1にあたる約300万平方キロメートルの海域を守ることであると述べている。これは具体的には、北から黄海、東シナ海、南シナ海の大陸周辺の海であり、さらに「中国の領土」である台湾から太平洋に向かって200カイリの海域が含まれる。中国はこれらの海を支配することによって、その海域に所在する生物資源・非生物資源、とりわけ海底石油資源の開発・利用を意図している。

中国は?ケ小平政権が断行した経済改革・対外開放により著しい経済成長を遂げた結果、エネルギーの逼迫を招き、とりわけ石油生産は需要に追い付かないところから、石油輸出国から輸入国に転じようとしている。それ故中国にとって大陸周辺の海底石油資源の開発は緊急課題であり、さらには中東の石油に対しても強い関心を示している。

この海域、とくに南シナ海は交通・軍事戦略の要衝であり、直接戦争という手段によらなくても、シーレーンを脅かすことによって日本、台湾、韓国に打撃を与えることができる。また東シナ海には、わが国の領土であるが、中国が領有権を主張している尖閣諸島が所在するばかりか、この海域に広がる大陸棚には豊富な石油資源が埋蔵されている。

 

 

 

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