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南沙群島には180余の島・岩礁・沙洲・灘があるが、面積が100平方メートル以上の島はわずかに7つであり、大部分が岩礁・沙洲などである。そのわずかな、人間の住める島礁はこれまでに台湾・ベトナム・フィリピン・マレーシアが占領し、中国は建国以来南沙群島の領有権を主張したが、1つの岩礁も占領しておらず実効支配していなかった。というよりは海軍力を保有していなかったから、占領できなかったし、占領しても維持できなかった。(第1図参照)

主権標識と軍事施設の建設は、そのような状況のなかで中国が南沙諸島に対する領有権を現実に行使するために実施した具体的措置であった。1992年2月中国は「中華人民共和国領海法および接続水域法」(以下領海法とする)を制定して、台湾および釣魚島(わが国の尖閣諸島)を含む付属諸島、澎湖諸島、東沙諸島、中沙諸島、西沙諸島、南沙諸島を中国の領土として明記した。これまで述べてきた中国海軍の外洋進出をみるならば、領海法の制定はそれを国内法で裏付けるものである。その脈絡で上述した中国海軍の行動は、中国にとってきわめて重要な出来事であった。中国海軍の外洋進出を米ソ冷戦の解体、およびその結果としての米ロ軍事力のアジアからの後退に求める見方が一般的であるが、中国海軍の外洋進出は1970年代初頭に始まり、中国の艦艇建造能力および補給・通信などの支援能力の着実な成長を背景に、1980年代に入ると急速に進行している。

 

2.2.:独立作戦能力を備えた海軍力

 

中国海軍は1949年の建国当初から、水上艦艇部隊、潜水艦部隊、航空部隊、陸戦部隊、海岸砲兵部隊の5種の兵種から編成され、海軍だけで独立した作戦能力を有する軍種の構築を目標として徐々にではあるが着実に成長してきている。中国の海軍力がどの程度の水準であるかを評価することは筆者の能力を越える問題であるが、1980年5月に実施された中国の大陸間弾道弾の発射実験を支援する目的で、「遠望」型科学観測艦2隻、総合補給艦2隻、遠洋サルベージ艦2隻、遠洋調査艦2隻、遠洋トロール艦4隻、「旅大」級ミサイル駆逐艦6隻の合計18隻から編成された艦隊が、途中どこに寄港することもなく、約40日間太平洋を縦断して南太平洋を往復し目的を達成した事実から、この時点ですでに中国の海軍は外洋海軍としての一定の能力を備えていたと評価できる。その後水上艦艇ばかりでなく潜水艦、航空機(中距離爆撃機、艦載ヘリコプター)から編成される海軍部隊がしばしば西太平洋および南シナ海を遊弋し、あるいは軍事演習を実施している。

中国の海軍力は米国はもとより、わが国の海上自衛隊と比べても低い水準にあり、洋上防空能力あるいは電子戦能力などの領域では落伍的といってもよい水準にある。しかしながら改良型とはいえ、ヘリコプターや先端的な電子機器を搭載したり、あるいは核戦争に対処するために船窓のない密閉型などの新しい駆逐艦・フリゲート艦、さらに「旅大級」を拡大・改造した「旅海級」ミサイル駆逐艦(6,000トン)などが建造されている。3段式で射程距離8000キロメートル以上の第2世代の潜水艦発射弾道ミサイル「巨浪2号」およびそれを搭載する新しい原子力潜水艦が開発されているとみられている。

 

 

 

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