加藤 逆に言うと、行ったり行かなかったりするのは一番よくないですね。
川村 派遣が、日本の場合ほとんど個人ベースなんですね。先生のように大学時代の人間的な関係から呼ばれているというようにですね。結局、日本では海の問題をやっている研究機関がないということですね。
大内 SEAPOLの日本事務所を形だけでも同居させるような研究機関があるといいのですが。それで連絡などは「ここに来る」という形ができるでしょう。
一時、わたしのいる中央大学に連絡事務所を置かせてくれないかと言われたんですが、どうも大学はそういう機能をさせてくれない。いろいろ考えると、そういう連絡所としては、海洋関係の研究所がいいと思うんですね。そういう場所があると、要人が必ず寄ってくれるし、テーマを決めるときも相談を持ちかけてくる。
それから、日本から誰か理事を入れようという話があるんです。理事に入って欲しいという話は、内部では上から下まで了解済みなんですが、日本には候補者がいないんですね。同種類の機関のしかるべき方であればいいんです。もしこちらでできればいいですね。
加藤 恐縮なんですが、なまじちょこっと行って、あとは行かなかったら、その時の主張が残ってしまうこともあるでしょう。最後は数の論理で行くと、絶対に沿岸国とか途上国の方が勝ってしまうわけですからね。だから余り中途半端にそういうところにちょっと手を出して、あとをやらないというのは、いちばん良くない。継続するなら継続するで、アメリカもちゃんと巻き込んで、いつも同じ主張をする。ほかの国連のイシューと同じように、数の上では多い沿岸国や発展途上国がどう言っても、彼等は遠くに出かけていくという力もない。沿岸国の権利を強化し、自由通航を抑制する方向に向かっていくわけだから、日本や米国など広く海洋上の活動をしている国が団結して出て行って、同じ主張をしてSEAPOLや海洋法が変な方向に行かないようにするというところまでやらないと意味がないと思うんですね。だから、小川さんがさっき言ったことの本当の答えですが、わたしは「完全に無視していた方がいいかもしれない」とも思うのです。
21:「入会権を持つような水域」:アジア的な解決?
大内 あそこはご承知のように、南沙、西沙の島の問題がありますね。日本と似ているんです。ところが、その対処の仕方が、ASEAN諸国はちょっと違うんです。昔は取り合いで、互いに非難しあいながらやったものを、いまは、そのステージを過ぎた。あの付近は取り囲まれていますから、「あれはみんなの海だ」という考えになってきました。パトリモニアル・シー(世襲海域)のような考え方が最近強くなっておりまして、脅威がないときには、みんなどこの島にでも行って潜ったり遊んだりしているので、そういう入会権を持つような水域にしたらいいのではないかという発想が強くなっています。
私がもう一つ問題提起したのは、「すべての島は領有されなければいけないのか」ということです。世界のいくつかの島は持ち主がいなくてもいいんじゃないか。共有する島が多いほど、その地域は平和であるという答えもあるんですね。どこかがどこかの島をぶんどろうとした途端に戦争の先駆けですから、それでみんな準備をし始める。したがって、領有権がはっきりしないところをみんなで共有し、その島の所有権問題があるのなら、それは脇に置いて、魚だけはみんなで分ける。