私は自由航行権というのは世界の貿易や海洋の安定のために絶対に必要なものですから、これは譲ってはならない権利であると思います。いろいろな主張が出てくるとは思いますが、われわれは、ポリシー・オリエンテッド・アプローチを堅持して、これは絶対に守るようにしなければならないと思うんです。
大内 プルトニウムの運送に関して、日本は「通るな」と言う国には「通りません」と言っているんですね。それがいけないんです。「通りません」と言うと、また「通るな」と言われる。わが国はその辺が曖昧ですよ。結果的に黙って通っているとすると、「通る権利があるから通ったんだ」と事後的にでもいいから発表する必要があるでしょうね。
平間 私も海上自衛隊におりまして、15年程前に遠洋航海で南米に行きました。そのときにペルーが、「200マイルの領海に入るときには通報せよ」と言うんです。わが方は公船であり、国際法的には軍艦ですから無視したんですが、あちらは「国内法で決めてある」というのです。したがって、「入域したら報告せよ」と言うんです。
大内 それは国連海洋法条約に入ったら、領海宣言は当然できませんよね。しかし、その3ヶ国については国連海洋法条約に全然入っていない。国内法にスタンスを置いている。
平間 それに従うと、ほかの方にどんどん波及しますので、いろいろとあったんですが、結果的には海上自衛隊としては無視、ということで知らん顔をして入港してしまったのですが、相手はこれには何も言わなかった。
大内 もともと領海でも経済水域でも、自分でコントロールする能力があるから、200カイリとか持とうとしたんですね。いまは、実際に強制力がないのに口だけで言うんですね。それでは法ではないんじゃないですか。
山本 たしかに現在の規定では自由通航権が認められるということになっているわけです。だから、聞かなくてもいい、無視してもいいわけですね。だけど、それがだんだんそうじゃなくなって、一部認めるべきだとなってきますと、無視すれば国際法違反だということになってしまう。
平間 自分の国に「海域を管制する権利がある」といいながら、それらの海域の航海の安全を確保する努力を行なっていない国が多い。これらの国は、自国の都合の良い漁業だとか、海底資源にばかり関心が強い。たとえば太平洋やインド洋(の一部)の航行警報担当国は日本であります。さらに日本は、日本の経済的水域として認められている海域に関しては、デッカやロラーンなどの航路標識を整備し、必要な場合には救難活動も行なっています。ところが、経済水域内の資源などを主張する一部の開発途上国は、その海域内で発生する海賊行為や海洋汚染に関する関心も低い。自国の利益だけを主張している傾向が強いですね。経済水域内の航行を規制するのには熱心ですが、これらの国は海洋が世界共有の公共財であるとの責任感がないのでしょう。
大内 そうですね。ですから、2004年にその問題が出て来たら、できるだけ多くの国が、沿岸国のそういう主張に対して、「うちはそれを無視して通った」ということを言って、その事実を明らかにしていくべきでしょう。慣習法化していく必要があると思うんですね。
川村 山本さんが言いましたが、Freedom of Navigationの問題ですね。これは非常に大事な問題です。例えば南シナ海あたりでの領土紛争も、領土紛争と捉える限りは二国間問題です。たとえば、中国とフィリピン、中国とベトナムの二国間問題ということになります。そういう見方をすると、そこを通る船は何も言えないんです。
ところがあの地域全体の安定ということを考えたら、二国間問題ではないんです。