先進国、つまり、アメリカとか日本が非常に心配したのは、領海、経済水域、群島水域、海峡などの管轄権です。当時の先進国として、特に日本、アメリカには、「これがいわゆる泥縄式に管轄権が拡大していくのではないか」という恐れがあった。英語でクリーピング・ジュリスディクションですが、日本語で言えば「なし崩し的管轄権拡大」のことです。結局12カイリの領海には、さらに12カイリの無害通航権がありますね。その無害通航権が、結局はその外側にある経済水域に広がっていくのではないかという懸念です。経済水域はご承知のように、条約では自由通航の水域になっていますからね。これがなし崩しにされる恐れがある。
すなわち通航に関しては、公海と経済水域は等しく自由通航です。資源に関しては、領海と経済水域が排他的管轄権です。そういうふうになっているんですが、どうも最近の傾向を見ると、無害通航が経済水域の中にはみ出してきている。プルトニウムの運搬の事例は全くその例でして、それ以外にも何かにつけて、はみ出してくる。例えば経済水域外における資源の開発が進んだり、あるいは多様化してくると、事実上は領海と経済水域が変わらなくなるのではないかという心配があります。
17:日本のプルトニウム船問題
現にプルトニウムの船は通れませんし、ロバート・スミスの地図によれば、全部の島の周りに200カイリを線引きしますと、インド洋から日本には、船が着かないことになります。全部経済水域になってしまうからです。その外側を通ってこようと思ったら、南米のほうをずっと遠回りしなければ、日本に着くことができません。
現実には、もうすでにあちこちの論文に発表されているように、日本政府は、いや、事実上今度の船はイギリスとフランスですけれども、前回も同じですが、いろいろな国の経済水域を黙って通ってきたんですね。通らないと来られない。
そうすると一体どっちが悪いのか。沿岸国が通るなと言った。それを通らせた日本が悪いのか、それともそういう無理なことを言う沿岸国が悪いのかという問題があります。
そのこと一点を考えても、やはり経済水域を無害通航水域にすることはできないですね。それは常識的に判断してそうです。だからこそ経済水域は自由通航と一所懸命先進国が頑張ったんですね。ところが日本の国際法学者は二つに分かれています。慶応の中村先生は、経済水域を通さないことはけしからんというお考えです。それに対して京大の高林先生は、時と場合によっては沿岸国にその権利があるという、そういう沿岸国寄りのお考えですね。
しかし地図を描いて、船がヨーロッパから日本に着かないというと、これはプルトニウムだけではなくて、なにかにつけて将来通れなくなりますよね。その点は2004年においてよほどしっかりしなければならない。
ところが現実に核兵器あるいは核物質に対する恐怖心はありますし、資源に及ぼす影響も強いですから、それをなんとかしなければならない。そこで考えられるのは群島航路帯通航権です。群島水域につきましては群島航路帯通航権というのがありまして、フィリピンとインドネシアは特別に航路を設定してその航路を通る限りにおいては公海と同じように自由通航にするということでやっています。