私達の認識、安全保障上の見地から言うと、この地域の平和と安全を守っているのはアメリカ海軍であって、その行動の自由を確保することこそ、究極的な安全保障の鍵である。したがって、逐条審議にとどまった非常に狭い視野での解釈の問題ではなくて、もう少し戦略的な視点からこれを検討し直してはどうですか、ということを提案したわけです。
それは30分という限られた時間だったんですけれども、地域の諸国がシーレーンというものに生存と繁栄を依存しているわけですから、そこから説き起こしていって、アメリカの海軍のプレゼンスというのは、それを支える大きな柱になっているので、お互いの国がもっと協力して、地域の平和と安全のために、もっとアメリカのプレゼンスを助け励ますようなことを考え、この群島水域の問題にもそういう視点からスポットライトを当ててほしいということを申し上げて結論にしたわけです。
大内 従来のSEAPOLでは、そういう率直な意見が、私の記憶では出たことがないんです。しかしみんなそれは認識しているんですが、開発途上国時代の昔からの癖〔事務局注:専門家の間で使われる業界ジョークに「水平線上に軍艦が見えるとまた植民地にされるのではないかというDNAに組みこまれた恐怖」という言いまわしがある〕かなにか知りませんけれども、アメリカの存在、特に軍艦のことは何となく話題に上がっていないんですね。今度、はっきり出されたことは、そういう意味では非常に新鮮だったんです。別に反発はなかったですね。
大越 例えばそこには中国の担当はいらしたんですか。
川村 来ていました。〔注:論文発表者と現地大使館員〕
大内 中国はSEAPOLの会議には最近さかんに来ていますね。
大越 その時に今の川村さんの発言を聞いて、中国の人はどういった態度といいますか、反応を示したわけですか。
川村 いや、別に。黙って聞いていました。
大内 自分たちもそうだからですね。
川村 それで私は、地域の平和と安全を守れる実力のあるのはアメリカ海軍しかないでしょう、という言い方をしたんです。アメリカがいやなら、それではロシアに期待しますか。中国に期待しますか。日本に期待しますか。このように消去法でいくと、もうアメリカしかないんですね。
要するにアメリカは、領土的な野心が全然ない国ですから。そういう意味で最適だという説明の仕方をしました。特にあえて反論というのは出てこなかった。黙って聞いていました。
大内 大分前のことですが、インドネシアの元大臣のモフター(Mochtar)という人が、私に個人的に原稿を送ってきて、それを西日本新聞に掲載してくれと言ってきたことがあるんです。その中で「海はアメリカの海軍に任せろ。日本の海軍は出て来ちゃいけない。戦時中がまだ忘れられていないので、親日的だけれども、やはり海軍までは出て来てはいけない」ということでしたが、それはもう十年ぐらい前の話ですが、結局今でもそうなんですよね。
川村 最近は、日本についても、少なくともアメリカと一緒に並んで行動するかぎりにおいては、抵抗は少ないんじゃないかと思いますけれどもね。