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外務省とアメリカの国務省は、戦後半世紀にわたって、だいたい一致しておりましたので、メリット的には、問題はないのですが、わが国の国際法学は、やはり横田喜三郎先生の影響が非常に強くてどちらかというと実定法主義であります。

しかし、小田先生もマクドゥーガルのお弟子さんですから、マクドゥーガルとのしばしばの論争にもかかわらず、ICJの少数意見、個別意見を読むと、ポリシー論が随所に出てきます。たとえば、核兵器の使用についての勧告的意見の中での独自のご意見の中には、いわゆる核抑止論が相当の紙面を割いて出てきます。

しかし本来、横田喜三郎先生、それから小田先生の建前は、核抑止論とは関係ないんです。核兵器の使用の禁止というのは、いわゆる過去の毒ガスその他のハーグ条約とかジュネーブ条約があるから、その条約を類推適用、あるいは拡大適用すればよい。さらに部分的核実験停止条約、核拡散禁止条約など一連の流れに沿って、いわゆる実証主義の立場に立てば、いまや核兵器の使用は禁止されているという見解を展開できる。しかし、小田先生はそう言わずに、核の抑止力を非常に強調される。それなりに核兵器が役割を果たしているのだという理論なんです。ですから、きわめて政策的な判断をなされています。

それで、小田先生を中央大学にお招きして先生に特別講演をしていただいたときに、「先生もとうとうマクドゥーガル理論になられましたね」と言ったら、「そう言うことかね、なんだかよくわからないけど」と納得されませんでした。けれどもわれわれから見ると、国際法の適用には、どうしても政策設定が先行せざるを得ない。そうでないと言っても、それはやはり現実に背を向けていることになる。

マクドゥーガルの問題の本質は、その政策がアメリカ人ですからアメリカ的だったということですね。私たちは日本人ですから、それではどういう政策を出すか。たまにはアメリカの外交政策と日本の外交政策が一致することもありますけれども、しかし、アメリカを批判する政策が出ることはあって当たり前です。むしろ平和憲法的な政策を日本人としてバッと全面に押し出したり、日本人独特の国際法の理論を展開することはできる。したがって、方法論においては変わらなくても、決定においては弟子もマクドゥーガル教授と必ずしも一致しないこともある。

「そういう議論では困るじゃないか」とおっしゃる方がいるかも知れませんね。「答えが一つでない法理論は困る」と言われるのですが、それは、やはり法以外の学問、社会科学あるいは自然科学などの学問が、まだまだ未成熟であることから出てくる政策の未完成、政策の不徹底から来るのです。法政策というのは、やはり法以外の領域における科学の進歩を前提としている。そういう意味では、将来諸科学の分野における発展が実現することによって、学際的な研究の結果、諸国家の外交政策が統一されてくる可能性が強いのではないかと思っております。

 

 

 

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