日本財団 図書館


最も有名なのはポマトである。ポテトとトマトの細胞を融合してポマトをつくって、寒い所でトマト、暖かいところで馬鈴薯をつくる実験がおこなわれた。最近ではカレイの遺伝子をとって、それを植物の方に移して、耐寒性の農作物を作るという研究もやっている。そういう時代になってきているので、水産の方でもこの種の研究が出てくるのではないかと期待している。

水産における「増殖」、「養殖」、「栽培漁場」というのは、それぞれいろいろ欠点があるが、それをハイテクでどうやって克服するか。こういう考えでハイテクの開発を進めていくべきである。

1本のトマトに1万個のトマトができるといったような話はよく聞くが、ハイテクの利用は興味本位でなく、危機克服に焦点を絞るべきである。農薬を少なくするにはどうしたらいいか、化学肥料が少なくしても従来と変わらない収量を得るにはどうしたらいいか、そういう現代の食糧問題が抱えている課題を克服するところにバイオテクノロジー開発の重点を置いていく必要がある。それは水産とても同じことである。現状に関する技術的欠陥を、どうやってハイテクで解決していくか、そういう問題の受け止め方をすべきだと思う。

これは資源問題だけに限定する必要はない。現在、水産業の就業人口は激減し始めている。そのうえ、その年齢構成が高齢者に傾斜してきている。水産業は単に肉体労働が主体であるばかりでなく、大きな危険を伴う仕事である。就業人口の現状では日本の水産業は労働面からも危機に陥る可能性がある。

水産物に対するニーズは強いわけだから、水産資源の利用は労働面からも強化しなくてはならない。その一つとしてはロボットの開発が考えられる。省力化と危険防止との両面をカバーできる技術が開発されなくてはならない。

また、われわれが死ぬ前の日まで元気で生きられるように、遺伝子治療ができれば、介護費用は少なくて済むわけである。国の財政資金を漫然と使わず、焦眉の問題解決投資して欲しいものである。

 

12. 食生活への反省

 

経済発展は生活水準を向上させ、動物性食糧の需要を高めるが、供給がそれに追いつかない場合、「市場原理」が正常に機能していれば、飼料穀物の価格は高騰し、畜産物や魚介類の動物性食糧の価格を上げ、結局消費は抑制される。

しかし、大量の動物性食糧を吸収しなければ生きていけないという考え方に立脚しているとすれば、この事態は大問題になる。ベジタリアンにみるように、動物性食糧なしにも、人間は生存できる。栄養はバランスの問題である。正しい栄養学的知識を普及させれば、動物性食糧への過度の需要プレッシャーは避けられるはずである。

しかし、動物性食糧が有害だというのではない。吸収率がよいから、適量なら、むしろ健康食品である。そこで、植物蛋白を動物蛋白へ直接転換する技術開発も考えるべきである。

動物に餌をやると、動物の成長・生殖・生活に使われる部分があるため、その全てが動物蛋白には変換しない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION