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あるいは、海の上の作業だから安全確保が重要で、その技術開発も進む。そして、音波で魚群を把握して、それを根こそぎ捕ってしまうという掠奪生産の最たる形にまで発展してきてしまった。再生産による資源の増殖がない限り、これは一つの限界を意味することになる。

日本は漁獲量のうち40%以上を遠洋漁業に依存していたから、「200海里専管水域」の設定はたいへん大きな打撃となった。日本の漁船が外国の経済水域で操業するときは、これからは漁獲量についてその国の許可が必要になり、経済水域への入場料を払わなくてはならない。日本の遠洋漁業は毎年減少するようになった。そのため、わが国は水産物の生産が、輸出のみならず、輸入でも世界一になってしまった。そればかりでなく、最近は生産も減少し、トップの座を中国に譲ってしまった。

日本が今後とも水産資源を確保するためには、次のような努力が必要である。

第1に、既存の遠洋漁場をできるだけ確保する努力が必要である。第2に、新しい漁場の開拓が必要である。これには国際関係が微妙に影響してくるから、水産業も外交・政治の要素を考慮しなくてはならなくなる。

第3に、水産未利用資源の開発、あるいはその利用が進められなければならない。たとえば、南極オキアミとか深海魚の利用である。南極オキアミの潜在的棲息量は不明だが、鯨の餌であるだけに、鯨の頭数が回復するまではかなりの量が利用できるはずである。しかし、輸送にコストがかかるため、消費量が増加しないことには価格が下がらず、これがまた普及の障碍になっている。深海魚は大陸棚傾斜面から深海に棲息するので、棲息密度が低く、漁獲に費用がかかるので、あまり多くを期待できない。

第4に、既存の水産資源の利用方法を再検討し、新しい利用方法を開拓しなくてはならない。たとえば、日本独特の食品である蒲鉾は、魚介類の繊維性蛋白質だけを利用するため、水溶性の蛋白質を廃棄してしまう。これは資源の浪費であるばかりでなく、水質汚染の公害問題にも関係してくる。

第5に、「栽培漁業」の研究開発を進める必要がある。「栽培漁業」の構想に到達するまでには、次の三段階の展開があった。「増殖」、「養殖」、「栽培漁業」である。

「増殖」というのはハマチなどの高級魚を捕ってきて、イケスに入れて餌をやって育てて、季節外れに、高く売れるときにそれを出荷する。そういう意味で市場価値を高めていく、それが「増殖」である。

これはただ捕獲して、出荷の時期をずらしているだけで、在庫操作と同じやり方である。掠奪生産とあまり大きく変わらない。ただ出荷量を年間平準化して、価格の暴騰暴落を避けるというメリットはある。

 

9. 養殖の限界

 

そこへいくと「養殖」は、一応稚魚から育てて成魚にして出荷するから、一歩前進である。ただ問題なのは、完全な「リサイクリング・システム」が確立していないという点である。卵を採って、それを孵化して育て、また、それから卵を採るという「リサイクリング・システム」は、少なくとも今までのところ確立していない。

 

 

 

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