これを受け入れるためのロジスティックス(流通拠点)が世界的に完成していなくてはならない。
また、世界全体で約7,000万トンの穀物が減耗している(1995年)。この原因は流通施設が不完備なために、穀類が腐ったり、捨てられたり、破損したり、動物に食べられたりするためである。取引量が倍増すると、このままでは減耗量も倍になる。ロジスティックスを世界的に拡充・整備していくだけでも減耗はなくなり、穀類供給は増加する。
ロジスティックスの世界的整備拡充は穀物ばかりでなく、水産物を含めた食糧全体の問題である。
先進国農政が市場指向型へ転換するが、この政策転換の背景には、世界の食糧需給に関する逼迫見通しがある。21世紀前半は食糧貿易が促進され、供給大国の国内農業は活況を呈し、その保護は必要なくなるだろう。しかし、仮にその通りになった場合、穀類在庫による世界の「食糧備蓄」体制はどうなるのか。
穀類の「適正在庫率」は消費の約2ヶ月分というのが経験的定説となっている。この在庫率は世界各国が一律に確保できるものではなく、食糧供給大国、とくにアメリカの過剰在庫があってはじめて世界平均が適正化される。しかし、アメリカはこの過剰在庫を世界の安定供給を考慮して抱えているのではない。
アメリカは農業保護政策によって過剰生産に陥り、やむをえず抱えているものである。したがって、アメリカの農政が市場指向的になり、在庫率がアメリカ一国として適正化されれば、それが世界的に平均化されて世界の在庫率は過少になり、世界の需給は不安定の度合いを増す。この空白を埋めるためには、世界共通の穀類による「食糧備蓄体制」の設立が必要である。
在庫管理の問題は水産業についてもいえる。世界の魚介類に対するMSYが一種の在庫であるとすれば、この水準を護るための世界的管理機構が必要である。「200海里専管水域」は沿岸国の利益のためにあるのではなく、水産資源という人類共有の資産の管理を沿岸国が委任されたのだという思想が今後、形成されて行かねばならない。
8. 水産業の展開
これまで水産業を食糧一般の枠の中で論じてきたが、水産業内部の問題をいま少し考察してみよう。生産方法を具体的に考えていくと、三つの段階がある。掠奪漁法が基本にあって、存在する資源をいかに効率よく捕るかということだけに技術開発の関心が集中してきたため、これはまず船舶の能力を高度化する方向で発展をみた。
船舶の能力に応じて「内水面漁業・沿岸漁業」、「沖合漁業」、「遠洋漁業」と展開してきた。全体としての生産量は昭和50年代をピークにして下降傾向へ転ずるのであるが、数量と金額の間には若干のズレがある。つまり、漁獲は価値の高い魚種へ重点を置くために、金額の方が数量の低下より遅れ気味である。しかし、低下傾向になることには代わりはない。
戦後、労働賃金が上がっていく段階では、そこに省力化技術が入ってきて、機械化が進む。