もっとも、この側面はそれらの規制が撤廃されれば、資源の範囲を拡大する可能性には繋がる。
水産資源の短期的・長期的変動原因がつかめないため、水産業はいまのところ「自然の気まぐれ」に委ねられがちである。他方、水産物の消費習慣は短期的には大きく変わらないし、長期的には水産物以外の食料からの影響も受ける。したがって、水産物には需給ギヤッブが常に存在し、その価格は安定しない。
ところで、水産資源は現在、二つの面から打撃を受けている。近年海洋汚染が世界的規模で進行しているが、これは石油タンカーの石油漏出をはじめ、工業化を中心にした経済開発、農業の工業化、水産養殖の普及などによるものである。このため赤潮などの発生で水産資源が打撃を受けている。
また、水産資源はその再生産能力を上回って漁獲すると枯渇してくる。魚介類はある程度捕獲しないと増殖しない。数量が減ってくれば、その魚介類は種族を保存するために子孫を増殖しようとするらしい。しかし、捕獲にも限度があって、ある水準を越えると、再生産能力が種全体の減少に追いつかなくなり、本格的な枯渇に転落していく。
再生産能力を失わずに漁獲できる上限量を最適維持生産量(Maximum Sustainable Yield、略してMSY)という。MSYの推定は大変複雑で、難しく、所詮、大ざっぱなことしかいえないが、FAOでは、それがだいたい1億トンであろうと考えている。
日本は水産物の生産、消費では世界に突出した国だが、近年他の国も水産資源を重視するようになってきた。世界の漁獲量は現在、約8000万トン、そのMSYに近づきつつある。世界の水産資源が限界にきているので、水産資源は国際問題となっている。FAOの見通しでは、需要の方はこのままいけば、1億3000万トンぐらいまで増加するのではないかとみている。そうすると、水産業の当面の資源問題は将来予想される5000万トンの不足をどうするかという問題になる。
また、海底にはマンガン団塊などの膨大な鉱物資源が存在していることも明らかになってきた。広く海洋資源を国際的に保全していこうという風潮が広がり、それが世界海洋法会議で「200海里問題」として論議されることになった。200海里問題はさらに国境の線引き問題にも発展していく。
したがって、水産には食糧全体の需給問題からくる圧力に加えて、水産資源のMSY限界説があり、その壁を突破する技術的ブレイクスルーの他に、地政学的問題までが含まれることになる。
6. 市場原理と安全保障
水産業の食糧需給における位置づけが明らかになったので、ここで再び食糧全体の問題を考えてみる。世界の食糧需給にとって当面重要なことは、食糧の主要輸出地域、アメリカとEUの農業政策が保護主義から市場指向型に転換してきていることである。
先進国の農林水産業に対する「保護政策」が国内の農林水産業の経営を怠惰なものにし、国民に財政負担を強い、開発途上国の農林水産業を圧迫し、ひいてはその経済開発を停滞させてきたことは否めない。