唯是 そういう問題は確かにあって、それはギリギリまでいくとわからないんですね。専門家だって、本当にいいのかどうか所詮わからない。だけど、今まではとにかくやってきている。よく農業大学などには、自然志向で農業をやりたい人が来る。それでいろいろ教えて、肥料をやったり農薬を使うというと怒る。何もしなくていいんだ、そんなことではいくらやっても駄目だといって、最後に県知事に、あの教官はけしからんという手紙を出す。これには弱っちゃうという話があるんです。けれど、どこかの時点で気がつくときがくるんでしょうね。
山本 〈…聞き取れず…〉。日本は豊かだから大丈夫だろうということですか。日本人は贅沢ですから「養殖の魚は嫌だ、天然のぶりがいい」とかいいますね。
22:人間は一体どこへ行くのだろうか
唯是 豊かであるかどうかもわからない。アフリカでは、昔、家畜よりも野生の動物の方が高かった。われわれだって魚はそうでしょう。養殖より天然の方がいい。彼らは野生の動物を食べていたわけでしょう。それを畜産にしちゃったらうまくない。まずいから食べない。ところが今や野生のものは、われわれにはにおいが臭くて食べられないですね。畜産のものを食べる。そのことについて文句を言わない。人間は一体どこへ行くのだろうか、それはわからないですね。議論はそこまで突き詰めざるを得ないんです。
23:食料の話は狂信的な議論にふりまわされがち
加藤 何か一つのイデオロギーみたいなところがありますね。
唯是 そうですね。宗教に非常に近い。だから食料の話をするのは嫌なんです。うっかりそんなことを言っちゃうと、食いつかれるんです。そういう人は狂信的になっているから、いくら説明しても駄目なんです。
山本 いま困らないから言うんですね。なくなったらどうなるのか。
24:20年で完全に立ち遅れた日本のバイオテクノロジー
唯是 そうなんです。だからそこまでいっていない。日本は豊かだからね。ただこういう傾向が続くと一体どうなのか。だから20年前だったら、バイオテクノロジーというのは日本とアメリカが優性だった。ヨーロッパは遅れていた。ところがいまでは日本は、食品の問題、公害問題があって、完全に遅れましたね。