日本財団 図書館


一番大きいのはバイオテクノロジーですね。ですから、バイオテクノロジーを使って、生きた動物性の餌しか食べないというところを改良できないか。それは蚕ですでにやっているのです。蚕は桑しか食わない。あれも非常に困ったものでしたが、それを改良して、いま他のものを食べるようになりました。これは餌の供給面を非常に楽にしたと思います。ですから、そういうことであれば、魚だってやはり遺伝子組替操作などで、植物性の、しかも陸上の植物だって食べるようなことを考えてもいいのではないかと思います。

それからいまの回遊魚の問題でも、サケのように戻ってくる遺伝子をいろいろな魚介類に組み込んで、全部日本に戻ってくるようにしたらいいのではないかということをいっている人がいました(笑い)。もちろんこれは国際的共存に関する問題ですから、あまり意地汚くやる必要はないと思いますが、魚の回遊性とか定着性の遺伝子を組み込んで、ニーズに合ったものにしていくということは考えてもよいのではないでしょうか。

もう一つは、暖流と寒流で住む魚が違いますが、寒流の遺伝子を暖流の魚に組み込むとか、その逆をやっていくとか、そういうことによって、この海域はこれしかとれないという状況ではなくて、寒流で捕れる暖流の魚というようなことも将来的には考えられるかもしれません。これは遺伝子組替操作ではなくて細胞融合ですが、ミカンは暖かいところでしか採れない。だからそれをカラタチと組み合わせて、寒い所でもミカンを採れるようにする。これはオレンジとカラタチだからオレタチと呼ぼうというような冗談ではなく、本当の話をしていますから、いまにカレイとタチウオを組み合わせてカレタチも出てくるかもしれません。

最も有名なのはトマトですね。ポテトとトマトの細胞を融合してポマトをつくって、寒い所でトマト、暖かいところで馬鈴薯をつくる実験がおこなわれました。最近ではカレイの遺伝子をとって、それを植物の方に移して、耐寒性の農作物を作るという研究もやっています。そういう時代になってきていますので、水産の方でもそういう研究が出てくるのではないかと期待しています。水産の持っている「増殖」と「養殖」、「栽培漁場」というのは、それぞれいろいろ欠点がありますが、それをハイテクでどうやって克服するか。こういう考えでハイテクの開発を進めていくべきではないかと思います。

1本のトマトに1万個のトマトができるといったような話はよく聞きますが、ハイテクの利用は興味本位でなく、危機克服に焦点を絞るべきです。農薬を少なくするにはどうしたらいいかとか、化学肥料が少なくても従来と変わらない収量を得るにはどうしたらいいかとか、そういう現代の食糧問題が抱えている課題を克服するところにバイオテクノロジー開発の重点を置いていく必要があります。やはり水産の現状に関する技術的欠陥を、どうやってハイテクで解決していくか、そういう問題の受け止め方をすべきだと思います。

これは、例えば医学だっていろいろなところに使われていますが、われわれが死ぬ前の日まで元気で生きられるように、遺伝子医療をやってくれれば、介護費用は少なくて済むわけですから。国の財政資金をいろいろなことに使わないで、いま思い切ってそういう開発にお金を使って欲しいですね。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION