再生産による資源の増殖がない限り、これは一つの限界を意味していることになります。
そこで、次の三段階が考えられています。一つは「増殖」、次は「養殖」、それから「栽培漁業」です。「増殖」というのはハマチでなどの高級魚を捕ってきて、イケスに入れて餌をやって育て、季節外れで非常に高く売れるときにそれを出荷する。そういう意味で市場価値を高めていく、それが「増殖」です。これはただ捕獲して、出荷の時期をずらしているだけで、在庫操作と同じやり方です。先ほど問題にした掠奪生産とあまり変わりません。ただ出荷を年間平準化して、価格の暴落暴騰を避けるというメリットはあります。
そこへいくと「養殖」というのは、一応子供のときから育てて大きくして出荷するのですから、一歩前進です。ただ問題なのは、「養殖」の場合、完全なリサイクリング・システムが必ずしも確立していないという点です。卵を採って、それを孵化して育て、また、それから卵を採るというリサイクリング・システムは、少なくとも今までは確立していません。
「養殖」のもう一つの問題点は餌です。畜産にも餌の問題はありますが、水産の場合はもっと厄介です。魚というのはサケのような植食動物もいますが、大部分は肉食動物です。それも生きた肉を要求する非常に贅沢な生き物です。ウナギでもハマチでも、生産するのにはイワシを餌として与えなければなりません。8キロのイワシをやって1キロのハマチが生産されるといわれます。餌効率は畜産と同じ構造です。だからイワシが下級な魚かどうかは別として、少なくても市場価値として低いたんぱく質を、高いハマチなど市場価値の高いたんぱく質に変換していくのが「養殖」であるということになります。「養殖」ではイワシなどの生きた魚を餌用として集めてくるのが大変なしごとになります。それが最近のようにイワシがだんだん捕れなくなってきますと、餌問題で「養殖」は行き詰まってしまいます。
日本で最初に食用魚介類の養殖の対象になったのは車エビです。これは塩田の廃物利用から始まりました。戦後、塩が不足し、大蔵省が補助金を出して塩田を開発させた。薪を積んで上から海水をかけて、天日で乾燥させるというやり方です。それがほぼ完成したところで、イオン交換樹脂による新しい製塩方法が開発されて、塩田は意味がなくなりました。そこで、また補助金を出して塩田を撤廃するという妙なことをやりました。そういう状態の中で、水産庁の人がその塩田を上手く利用して、車エビの養殖を始めたのです。四国の高松の方に私も見に行きましたが、経営者が一番困ったのは餌だといっていました。車エビは生きた貝しか食べない。だから毎朝その辺の沿岸を走り回って貝を集めて歩かなければならないとのことでした。
再生産方式を確立するために、エビの交尾の状態を知りたかったのですが、それがなかなかわからなかった。夜デバガメみたいに懐中電灯を持って水槽の中を照らして歩いた。その結果分かったのは、交尾のときは殻を脱いで脱皮するのだそうです。それがわかってやっと繁殖の方法がつかめたといっていました。
もう一つ問題がありました。塩田で飼うと、車エビは直ぐ死んでしまう。研究の結果、塩田が酸素不足になることが分かった。それで毎日海水を海から引き入れるのですが、その作業も大変です。