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ですから、この技術は「農業の工業化」ということになります。こういう方法で、この30年間で穀類生産は2倍になったのです。

ところが、すでにわれわれが体験しているように、工業では「資源問題」と「環境問題」がまだ解決されていません。「農業の工業化」は工業のもっている諸困難をそのまま農業に持ち込むことになり、農業にとっても今日これは大問題になっているわけです。

ですから、この問題を打開しないことには、過去30年間で穀類生産を2倍にした技術では、21世紀の人口増加、あるいは食生活の向上に伴う食料の需要増加をカバーできません。「21世紀の食糧危機」とはそういうことです。食料が完全に足りるとか、足りないとかという問題ではなく、どうやって20世紀の農業技術の壁をぶち破るかというところに問題があるわけです。

打開策の一つとして有機農業というのが取り上げられています。これは昔の農法です。1930年頃、世界の農業技術は現在より有機的であっことは確かです。しかし、それで扶養していた世界の人口は20億でした。これが20億人しか養えない技術だとすれば、60億人という現在の世界の人口は養えないことになります。昔のままの有機農業では、公害は今日より少ないでしょうが、病害虫が多発したり、寄生虫がわいたりするわけですから、有機農業もそれほど単純な話ではありません。周りが農薬を使っていて、ある箇所だけ無農薬にすることは可能でも、日本全体、あるいは世界全体を無農薬にすることについては、まだ解決しなくてはならない問題がたくさんあります。有機農法はもちろん大切にしなければいけませんが、それだけでは現在の問題は克服できないということです。

そこで、ハイテク農業、とくにバイオテクノロジーが脚光を浴びることになるのですが、これまた食品の安全性の問題で目下大騒ぎになっています。食糧増産の技術開発をめぐって、食糧危機といわれる一つの問題点があるのであって、21世紀には食糧が絶対に不足するとか、しないとかということに焦点があるのではないと思います。水産の資源問題もそのレベルで検討していく必要があります。

 

3:水産業に対する需要圧力

 

水産については以上の関連の中で二つの問題が出てきています。一つは、もちろん人口が増加してきますから、仮に水産物の一人あたりの消費量が変わらなくても、総需要が増えて、当然増産が要求されます。もう一つは水産物がいろいろの観点から栄養学的に優れているという最近の見直しです。例えば頭が良くなるとか、コレステロールが減るとか、低脂肪高蛋白のヘルシー食品だという観点から、水産物が見直され、その消費が増えてきました。人口増からくる需要圧力と、健康食品という観点からくる需要圧力の二つが出て来ています。

では、水産物は需要増加に見合った供給ができるのでしょうか。これが非常に問題です。魚介類には捕獲しないと増えないという妙な性格があります。捕って減っていくから増殖しようという意欲が魚の側に出て、子供を産んでいく。捕らないと子供をあまり産まなくなる。

 

 

 

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