十市 多分民間ベースは切実な話なんです。これができたことでアジアの全体の産油国なりポジションなりが良くなっていくからですね。いまのように、欧米に比べてかなり高い油を買わされているのが、それによって、かなり是正される。産油国にとっては、自分たちが高く売れないという話でもある。
加藤 だけどノルウェーは関心があるわけでしょう。自分たちの原油を遠く離れたところにも売れるようにしたほうがいいから。今は賃貸料を払っているだけですが、ある場合においては投資をしてもいいと決断するかも知れない。
十市 いまはネタがあるからね。これはなくなるともうできなくなるわけだから。
25:再度の湾岸危機で、日本の備蓄をアジア全体でどう使えるか
加藤 公共財として考えるのか民間の投資がある程度期待できる分野と考えるのかということですね。仮に公共財と考えると、5000億円の投資の投資国は結局日本なんです。日本が、日本にとっての国益としてのエネルギーの安定供給というものを考えたときに、仮に50億ドル単位の投資をする場合、いろいろオプションがある。サハリンをどうするとか。あるいはもっと先の将来50年後ぐらいをにらんで、中央アジアにもっとましな鉱区を獲得しておくべきだとか、いろいろなオプションがある。今の日本のエネルギー安全保障なり石油の安定供給というものを考えたときのプライオリティの高い事業というのは一体何なんだろう。これだけに限られているんです。これはどういうものだろう。
十市 エネルギー全体で考えると、石油についてはやはり備蓄体制でしょう。いわゆる国内でやる備蓄はだいたいできあがってきているわけです。これからはアジアの周囲、特に中国、韓国を含めてアジアの国が輸入を増やしてきていますから、かつてのように日本だけが自分だけの備蓄で対応できる世界でなくなっています。そういう意味で、一種の共同備蓄的なもので、また再び湾岸危機みたいなことが起きて、供給がかなり下がったときに、その時に日本が今もっている備蓄をアジア全体でどう使えるか。あるいはそれだけで十分かどうか。これがいま論点になっている。一方には、今の日本の備蓄だけでアジア中が大丈夫だという議論もある。これをもっとアジア全体でシェアして使えばいいじゃないか、増やす必要はないじゃないかという議論がある。これは財政との関係です。備蓄は高いほうがいいんですけれども、そこは、いや、もう少しアジア全体の考えでは、多めの備蓄を持っていないと十分対応できないじゃないかということになると、アジアで共同備蓄的なものをもっとこれから作り上げていくのがやはり必要だといえる。そのためには例えば沖縄なら沖縄で備蓄すればいいですけれども、これはひとつの危機管理のありかたとしては意味がある。
26:日本の石油国としての在り方論:国際共同備蓄と有望鉱区の先行的取得
加藤 経済的な質問ですが、有望鉱区の先行的取得というのはもう必要ないのか。そのプライオリティは、今言った国際共同備蓄よりは低いと思いますか?
十市 僕たちはそう思いますね。とりあえず非常にそのように思います。これは、日本の石油国としての在り方論みたいな問題になっていますけれども。