46:アメリカが国連海洋法条約に参加しないワケ:深海海底開発がネック
小川 アメリカはどうして国連海洋法条約に参加しないのですか?将来的には、アメリカはどうするつもりですか。また日本はアメリカの動向に影響を与えることができるのですか。影響を与えるべきであるとしたら、われわれはどうしたらいいかということをお聞きしたいと思います。
布施 アメリカは、実は国連海洋法条約の主要なリーダーで、特に排他的経済水域を含めた交渉を、先進国のグループのリーダーとしてリードしたわけです。それで最後の段階でレーガンさんになって、条約から出ちゃったんですね。アメリカにとって問題があるとすれば、第11条の深海海底開発のところだけなんです。深海海底開発のところは、条約で作っているレジームが、ちょっと途上国寄りになって厳しくなったんですね。だからアメリカの企業が納得しないということで、最終段階で、アメリカはある意味で戦略的に、いろいろな国に圧力をかけるというか、脅すという意味で、自分の国で独自の深海開発のレジームを作ってしまった。それを押し出して、それに歩み寄らせようとしたんですね。ところが最終段階になってそれができずに、アメリカが出て行っちゃったということです。
現在アメリカの企業は、アメリカが作った国内の深海海底開発レジームに属している。この方が有利なんです。問題なのは、それをどうして国際レジームに移行するかということなんです。これは金がかかることなんです。既得権を保証しなければならないから。問題はそこなんです。
クリントン政権もそうだけれど、このままではアメリカは海洋問題では1982年以来孤児ですから、研究も出来ない、何も出来ない。だからアメリカは、何回も何回も国連海洋法条約に加入しますと言っているんです。ただ、もちろんアメリカが加入する場合は、合衆国上院のコンセントが必要でしょう。その場合、アメリカの企業ロビイストが活躍して議員さんを押さえているので、上院の承認を得られないということで、クリントン政権の単なる願望になっているんですね。
それ以外のことは、アメリカはどんどん国内法化して、国連海洋法条約を直接的ではないけれど、国連海洋法条約とまったく同じレベルで国内実施している。問題はあまり生じていないんだけれど、深海海底の開発の問題だけは、いわゆるアメリカの国内レジームによって生じる既得権の問題がネックになって、条約そのものの批准は出来ないですね。だけど、毎年早くやります、という掛け声は、アメリカの政権はかけています。
47:米海軍は安全保障上かなり不利益をこうむっていると認識
秋元 アメリカの場合は、政府が海洋法条約を批准しないがために、米海軍が安全保障上かなり不利益をこうむっている場面があるということがあるようですが。アメリカ海軍は、先ほど言われましたように、けっこうそのあたりのことを認識しているんですね。