布施 いまここでは説明しなかったんですが、次の大きな課題として、海戦に関する条約の全面的見なおし改正問題があるんですね。はっきり言えば、88条で、公海上における平和利用の原則が持ち出されたでしょう。それに対応するものです。人類のための海軍活動を前提にして、海洋における戦闘行為をどのような形でマニュアル化していくのかということが大きな問題です。今はそんなものは何もなくて、古い交戦法規しかないわけでしょう。これも、条約の大きな課題の一つなんです。それでアメリカ海軍はけっこうこの研究もしているし、アメリカ海軍そのものが、新しい国連海洋法条約に合致する海軍の活動を実定法化しない限り、違法だと言われる恐れがあるから、非常にまずい立場になる。そういう意味で、国連海洋法条約に沿った条約、特に海軍の行動に関するガイドラインその他のマニュアル化が必要で、それをしたいと思っているわけです。しかしアメリカ自身は、条約加入国ではないので、なにもイニシアチブをとることができないということですね。
平間 今日は、私のいままでの海洋に関するイメージとは全然違うイメージが提示されまして、大変ショックを受けまして、もう少し勉強したいと思うんですが、先生の書かれた本だとか、ほかのものでも、海洋法解説書はどんなものがよろしいですか。
布施 専門的なものか、啓蒙的なものかですね。われわれは研究しながら書いていますが、秋元さんあたりは解説的な論文をたくさん書いています。シリーズで書いていますから、それを見るだけでも、新しい海洋法はわかると思います。私には『国際海洋法序説』(酒井書店)という法律的な、新しい条約の枠組み、歴史を書いた本があります。そのほか私もけっこう論文も書いていますが、大きな流れを書きながら、啓蒙的な論文は秋元さんが書いていますから、ワンセットにして、秋元論文も読まれればいいと思います。
なまじ専門的な論文だと、堅苦しくてイメージが湧かないとかあるでしょう。それをご自分で咀嚼されるには、秋元さんが雑誌に書かれているから、秋元さんに聞いていただければ、だいたいわかります。1
1 秋元一峰氏の関連ペーパー等一覧
・ 「海洋の安定化とOPK」(『波涛』97年7月号)
・ 「オーシャン・ガバナンスとOPK」(『波涛』97年9月号)
・ 『シーパワー・ルネサンス』(防衛研究、97年1月)
・ 『海上阻止行動−その国際的取り組み−』(防衛研究所、96年3月)
・ 「ハリファックス海洋シンポジウム」(海上自衛隊誌『波涛』96年11月号)
・ 「海洋安定化への国際的取り組み」(防衛研究所第13回国際共同特別研究会報告書『オーシャン・ガバナンスとOPK』(98年1月))
・ 「シーパワーのパラダイムシフト」(『波涛』98年3月号)
・ 「海上防衛力の意義と新たな役割」(『防衛研究所紀要』第1巻第1号(1998年6月))
・ 「オーシャン・ピース・キーピング構想」(『環境ジャパン1999』(99年1月))
・ 「21世紀のシーパワーを視る(上)」(『波涛』98年 9月号)
・ 「21世紀のシーパワーを視る(下)」(『波涛』98年11月号)
・ 「Mission and Contribution of JMSDF in the post-Cold War and EEZ Era」(韓国海洋戦略研究所主催の国際海洋シンポジウム(98.12.1)で発表、同報告書に掲載)
・ 「国連海洋法条約とアジア太平洋地域の海洋安全保障協力」(防衛研究所、99年1月)
・ 「海洋管理の時代における海軍」(日本国際問題研究所『アジア太平洋の安全保障』、99年3月)
・ 「Ocean Peace Keeping-An International Initiative from Japan」(国連大学出版の『Japan Environment Outlook』(99.11.))
・ 「海軍力による「抑止」と「海洋安定化」−その幻想と現実−」(上)(『波涛』99年5月号)
「海軍力による「抑止」と「海洋安定化」−その幻想と現実−」(下)(『波涛』99年7月号)
・ 『軍による国際貢献』(共著。防衛研究所、2000年2月)
「東アジアにおける海洋の安全保障環境」『東アジア戦略概観』(防衛研究所編、2000年3月)
・ 「ユーラシア海洋世界とシーレーン防衛(第1部)」(『波涛』2000年5月予定)