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この原則を履行して行く上で、国家はどういう義務を負うのかということに関して、細かい規定があります。

たとえば218条に入港国主義があります。今までは旗国主義ですから、入ってきた船舶を入港国が取り締るなんていう国はどこにもなかったんですが、人類に対する犯罪として、どこであろうが、その国の領海であろうが公海であろうが、他国の経済水域であろうが領海であろうが、国際規準に反する海洋環境の汚染を引き起こしたような船舶は、人類に代わって入港国が取り締ることができるという措置です。そういう制度を、国家間合意の枠組みの中でどう理解するかということです。ほとんど無理でしょう。

 

34:「俺のもの」から「管理権限の共有」へ

 

そういうことになると、人類の共同財産というのは、単なる財産の共有ではなくて、「管理権限の共有」ということにならざるを得ない。これは俺のものだというのではなくて、これをどう管理して行くのか、管理権限の共有ということにならざるを得ない。その結果、国連海洋法条約で初めて、国際法上の「協力の原則」がでてきた。人類という概念を前提にして各国は協力して行かなければいけないという原則が出来たといわれています。

 

35:海洋法裁判所海底紛争裁判部

 

そうなるとさまざまなところで違いが出てくるわけです。たとえば今までの国際裁判では強制管轄権を持つような国際裁判所はなかったわけですが、海洋法裁判所は、初めて条約締約国に対しては強制管轄権を持つことになり、わざわざ裁判管轄権を承認しなくてもどんどん裁判所に行けばいいということになる。国際裁判所は、今までだったら国家にしか当事者能力を認めておりません。国際社会は国家間社会だし、国際法の主体は国家だから、国家以外のものを裁判主体として認めるなんていうことはあり得なかったわけです。

これは最終的に非常に問題があるということで、現在の国際法の枠組みの中でうまく行かないのではないかと言われた結果、今のところ、海洋法裁判所の場合は、国家ではない行為主体、裁判主体が訴えることができる特別なチャンバーを作りました。それが「海底紛争裁判部」で、そこでは私人、具体的に深海開発をする会社などがいろいろな問題を訴えることができるようにした。これも裁判所の当事者能力を、国家を超えた私人、あるいは国際機関に拡大したということで、一部限定的ではありますが、非常に大きな変化になっています。

 

36:フランス核実験は海洋汚染に関する「1条1項の4」違反

 

今までは海洋汚染も、「ポリューション」、「汚い」という概念が基本にありましたが、現在は海洋汚染に関する1条1項の4を見ていただければわかりますように、海洋環境に物質またはエネルギーを持ち込む行為を通じて、海洋エコシステムを破壊することが海洋汚染の定義だと国連海洋法条約では言っています。

ですから、フランス政府は、南太平洋で核実験をやったとき、実験が終わるまでは絶対といっていいぐらい海洋法条約を批准しなかった。

 

 

 

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