27:海洋法の3つの柱:南北問題の解決という経済的側面
それから第二番目の経済的側面ですが、これも大きな課題で、これが海洋法会議の主要な課題であったということです。つまり、人類の共同財産とされる海洋資源を、人類の名のもとに国際的に開発を進めることによって、当時、また、現在でもそうですが、行き詰まっていた南北問題の解決のためにいわゆる二国間援助体制を見なおして、国際的な制度のもとに南北問題を解決することを目的にしています。現在は南北問題の解決には、国際的制度がなくて、基本的には二国間援助体制で対応しています。先進国対開発途上国というドナーとレシピアントの枠組みの中でしか南北問題に取り組んでいません。これではいつまでたっても駄目です。だから72%の海を合理的に管理し、特に最終的には、深海海底の開発を国際機関が合理的に進めることによって、二国間援助体制を飛び越えた南北問題解決の制度を作って行こうということにしたんです。そういう新しい考え方を含んで、New International Economic Orderという考え方を出してきたわけです。したがって、パルドーとボルゲーゼの関心事は、海洋の新しい秩序の構築を通じて、南北問題を解決しようということにあったことは明らかであります。
28:海洋法の3つの柱:環境問題を総合的に考える
第三の柱は環境問題ですが、当然人類の海ですから、人類の責任においてこれを管理して行かなければいけないわけです。いままでの個別的な環境管理対策ではもう駄目だ、海全体を単一のエコシステムとして総合的に管理して行こうという考え方がここで育っています。国連海洋法条約以前の段階では、海洋汚染の問題はすべて、油汚染がどうの、何汚染がどうのという個別問題でした。海洋法条約になって初めて、あらゆる問題を同じ側面で総合的に考えて行くというふうになったんです。
この考え方の基本というのは、国連海洋法条約の前文の中に明記されています。「この条約の締約国は、海洋の諸問題が相互に密接な関係を有しており、全体としてこれに対応することが必要である」という文章になっています。これを入れろ、という運動を展開したのは、われわれのIOIだったということが言えるわけです。
29:従来の国際法の本質は紛争解決のシステムであり「権利の体系」であること
そういうことなので、国連海洋法条約の構造は、いわゆる、それ以前の条約の構造をはるかに超えています。それ以前の条約の構造は、A国、B国がそれぞれさまざまな論議を展開して合意に至った合意文書です。合意文書だと、それぞれの国が異なった権利を主張して、その権利をどう調整して行くかというのが、合意文書としての条約の本質です。義務の方は本質ではない、権利が重要である。つまり紛争解決のシステムなのです。したがって伝統的には国際法は、国際海洋法そのものも、「権利の体系」として成り立っていたということがいえます。