これは国際連合の憲章違反だし、WHOの設立文書にも違反している。国際問題ではない、国内問題なのに、国際機関が国内の保健衛生問題に携わっている。
でも現実問題としてそれをやらなかったら、アジア・アフリカの貧しい国はとたんにパニックになって、あらゆる保健衛生に関するサービスはゼロになるんです。だからしょうがない、緊急事態だということで、中島さんは積極的に踏み込んだんです。これが大変な問題になって、ついに支持が得られなくなり、結局このあいだ退任して、その後、例のブルントラント女史が事務局長になった。
16:国際法の枠組みだけでグローバルイシューが解決できるわけがない
これでわかるように、伝統的な意味での国際社会、国際法は、国家間社会であり国家間法なんです。ところが現実の問題としては、国家というものをはるかに飛び越えた大きな問題がたくさん起こっていて、とても国際社会の枠組、国際法の枠組だけでは、そういう大きな問題を解決できないということになってしまっているわけです。これはあたりまえのことで、もともと近代国家(近代領域主権国家と私たちは言っていますが)ができたのは、私に言わせれば300年前、川勝平太さんに言わせればたったの200年前です。いわゆる土地がすべてだった封建時代が過ぎて、お金、資本というものが人間生活の基本となるような資本主義が起こって来た。それに対して土地という古い概念でどうやって自分たちの旧来の権利を確保するかということが大きな問題になったわけです。
いわゆる封建領主の世界では自分の土地といっていたものを、それを国家という形にして、領域という形に改めた。その領域概念で、資本主義市場をある程度コントロールしながら、経済的な権益を自分のところに吸い寄せようとしたのが、現在の国家という制度です。しかし、最近では、資本主義市場で取り扱えるものが各種の生産物からデリバティブだとか見えない商品に変わっていって、取引方法もコンピュータ取引になりました。兜町でも手を使ってやっていませんからね。みんなコンピュータ化されました。あれは精神的なトラウマになりそうですが、そういうふうに変わっていくわけです。
ということになるとどうなるかというと、土地という概念で、資本主義の取引は全く管理できなくなった。その他の手段で国家が管理できる方法はない。国家は領域・領土というもので管理されているわけだから、領域・領土が現在の資本主義の管理に適さなくなってしまえばもうお手上げで、その結果どうなったかというと、国家の財政は急速に赤字になる。どこの国も赤字になる。アメリカは黒字だと思うと大間違いでしょう。財政は最大の赤字です。ただ貿易に関しては、アメリカは強力な軍隊で脅かすからなんとかなっているけれど、国内の財政は赤字でしょう。あれが黒字になる可能性はない。土地概念でさまざまな商取引をコントロールして、そこから上前をはねる徴税権という近代国家の主要な基本権が機能しなくなっていると言えると思います。