1945年の時点ではそんな問題は全然なかった。だから現在の問題を本格的に解決していくためには、国連憲章の全面的な変更が必要なのに、実は何もできない。できないままで、現在の問題を解決しようとすると、具体的には国連憲章違反ということになる。つまり国際法上の違法行為ということになる。それで国連全体が動かない。
15:中島WHO事務局長と緒方UNHCR高等弁務官が非難されたワケ
この代表的な例は、WHOに日本人の中島さんという事務局長がおられましたが、いろいろな反対にあって退任せざるを得なくなった。またUNHCRで難民問題をやっている緒方さんも、「国連憲章から離れている、それは国際法違反だ」と追及されて再任されずに、半分だけやって退任するという条件で、二期目をやることになった。なぜかというと、UNHCRにとって伝統的な難民問題は国家間問題だから、難民条約という国家間の合意に基づいて生じる難民問題を解決することができるだけです。つまり難民条約による定義は国家間を前提とするから、難民がA国からB国に国境を越えて初めて難民という定義が完成するわけです。しかし現在の難民は国境を越えないで、国内に留まって難民化している。それが環境難民だとか、開発難民だとかいわれている難民です。また、難民とも言えない国内居留民とかさまざまな言葉を使っていますが、現実問題としては難民です。しかしそういうものはUNHCRの緒方さんの権限外なんです。だけど、現実問題としてはそういう難民の問題が圧倒的に多い中で、国連の権威を保つために、ある意味では国際連合というものがほんとうの意味で役に立っているという世界の人々の期待に応えるためにも、そういう問題にみずから踏み込んでいかなければならない。
緒方さんは、ある意味では女性だということが特権なんです。緒方さんが男だったら、世界から袋叩きでひどいものだけれど、すごく立派な女性でしょう。だからあの人をみんなで袋叩きにするなんていうのは、お前が悪いんだと言われちゃうから、もう一つ踏み込めないところがある。そういうことを緒方さんはご自分で計算済みだと思うけれど、国内難民、開発難民、環境難民に対して、UNHCRは積極的に踏み込んだ。それで当然国際法違反になる。UNHCRの設立文書には書いてないのですから。それでアメリカは、やり過ぎだという。アメリカが出しているお金の使い道に対して、あなたは違法行為をしているんじゃないかということになるわけです。
PKOもそうですね。国連憲章に何も規定がないから、違法行為だと言って長い間ロシアなどは金を払わなかった。やっと、非常に限定的な範囲内でPKOを認めて、いまはお金を少し払うようになりましたけれど、PKOのお金のほとんどは通常経費では払えなくて、その他の自発的拠出金でまかなっています。もし、国連の通常経費で払うようになれば明らかに違法行為です。目的も何も書いてないのに、予算を執行するわけには行かないから。
WHOもそうです。WHOは世界の保健問題をやっているわけでしょう。世界には200の国家、準国家がありますが、そのうちにまともな国家は30ぐらい、拡大しても50ぐらいで、あとの150の国は、国内問題を管理する能力がないから、国民の保健などに関して、本格的に行なっていくような制度も何もない。そうしたらどうするか、そういう国はどこの国も、WHOにおぶさって、国連の金で、国連のやり方で、おんぶに抱っこで国内の保健行政をやるようになった。