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12:国家の存在を前提とするがゆえに、社会科学の崩壊が始まった

 

もうひとつはっきりさせるために、この問題についてもう少しお話ししたいと思います。実はいままでの社会科学といわれている法学、経済学、政治学などは、何が主要な研究テーマだったかというと、はっきりいって国家権力の実体追求です。国家の存在が前提になっていて、その国家とどうつき合っていくのか、あるいは国家権力を持って存在している国家をどのように民主的統制の下でコントロールをしていくのか、あるいはそういう国家を前提にした国家間の合意で、具体的にどういう紛争解決方法があるのかというような問題です。国際社会では国家間の合意が大前提でしょう。すべては国家なんです。国家が存在しないような、国家権力が前提とされないような社会科学は、社会科学として存在してこなかった。法律学でも、インターナショナル・ソサイエティといえば、国家間社会であり、そこには人間だとか人類だとか、そんなものは入って来ない。今はやむを得ず、国家が認める範囲でなんとかしようという努力をしていますが、まさに帝国主義的な発想で、国際問題は現実社会の問題とは全然関係ないんです。国家間の伝統的な問題については伝統的な方法でやるという意味で、国際法というものを国家間法と考えて、制度的に整備してきた。しかし地球環境問題だとか南北問題だとか、いわゆる国家の枠組を越える紛争の問題、グローバルイシューに関しては、国家間の合意はほとんど役に立ちません。

 

13:国家間合意の概念を拡張するだけの「ソフトロー」は姑息な概念

 

そうすると、また別のやり方でこれにアプローチしなければいけない。その合意は国家の合意を超えますので、伝統的な意味での国家間の主権を前提にした紛争解決という枠組をはるかに超えてしまうということが言えます。そうすると伝統的な意味での国際法では、国家間の合意だということにはならないので、仕方がないから、それらについてはソフトローという形で考えざるを得ません。伝統的な国際法をハードロー、新しい国家を越える法的枠組をソフトローというふうに分けて、ハードロー、ソフトローが広義の国際法のテーマだと言っているわけです。

私に言わせればそんなものはナンセンスで、そんな区別をする意味はどこにもない。帝国主義的な発想だからそうなるんです。しかし現実の問題、人類が21世紀にどのような形で生きていくのかという具体的な問題解決から行くと、そんな区別はナンセンスと言わざるを得ないわけで、現在の国際社会では、そういう形式論的な社会科学はどんどん後退しているということがいえます。

 

14:国連の限界の本質

 

国際社会において、特に国際連合というものがある意味で機能しなくなっているのは、そういうところに原因があります。つまり国際連合は、国家間合意である条約、これは国連憲章という条約ですが、これによって設立された法人で、その目的は国家間における紛争解決です。つまり、国際紛争の平和的な解決が目的で、その他の世界的な意味での人類問題、グローバルイシューの解決については、国連憲章のどこにも書いてないわけです。

 

 

 

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