皆さんが想像している以上に駄目なんです。それも、単に知識がないというだけではなくて、私は地理をやってきていませんとか、世界史はやってきていませんとか、そういう言訳を言うんです。こんなものは地理でも世界史でもない、常識の話じゃないかと言ってやりますが……。理学部などにはもっとひどい学生がいます。数学をやっていない物理学科の学生とかが平気でいるんですから、どうにもならない。だから大学は崩壊の一歩手前にあります。わが国の将来はどうなるでしょうね。
10:学生の学力低下よりも、社会科学の基本構造崩壊が問題
たしかに学生の学力が問題であるということは事実なのですが、私が言おうとしているのは、そのことではありません。法律学、政治学、経済学といったような社会科学と称される学問の基本的な構造が崩壊して、そういう問題について研究したいといったときに、それを研究する前提となる教科書とか、先例研究がどこにもないというきわめて深刻な問題についての現状です。これはものすごく大きなテーマです。特に、グローバルイシューといわれている地球全体の問題に関連しては、そういう伝統的な意味での社会科学の構造がほとんど役に立たないことが明らかになって来ています。そのために、学生はそんなものは選ばずに、日米関係だとか、日露関係だとか言った分野の歴史的研究を選べばいいんです。けれども、みなさんフレッシュな感覚を持っていて、それは悪いことはないんですが、南北問題とか、麻薬の問題、環境の問題、人権問題など、いわば領域主権国家という枠組をはるかに超えた地球的な問題に関して重要な関心を持っているわけです。それを卒論のテーマにするんです。そうしたらそれには何らの先例もない。考える枠組もない、教科書もない。ということで学生といえども、創造的に研究する立場で考えていかなければならないという状況になってきます。
11:太平天国の夢をむさぼる法学部
これが法学部ではまだそういう学生がすくない。なぜかというと、現実にどうであるかということに誰も興味を持っていない。先生も持っていない。だから現実ではなくて、誰かの本、教科書に強引に当てはめて解決策を探して行くことができます。僕らの学校には法学部がありません。国際関係学科ですので、実際にたくさんの学生が国際NGOとか国連の職員になって、現場で国際関係の仕事に就いていきます。あるいは途中で休学して、アフリカやさまざまなところに行って自分で仕事をしてくる。今はインターンシップがさかんですから、そういうことをやっているんです。
だから現実に解決できないような、単なる形式論なんていうものは誰も信じるわけがないんです。形式論的に、そもそも国際社会はこうだなんて教えても、冗談じゃない、そんなものはどこにあるんですか、と言われる。彼らは現実を経験しているんです。だからそういうものに対して、彼らはものすごく厳しい。だからなんとか別の学問的方法論を探さなければならないけれど、何もない。前代未聞の状況になってきているわけです。国際海洋法もそういう学問分野です。本格的な先例などというものはどこにもありません。