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いよいよわが国でも、海洋問題をどうしたらいいかさっぱりわからなくなっておりますので、海洋問題に関していまの学術の動向はどうなっているかを特集しようと学術会議が考えまして、『学術の動向』という雑誌の8月号が海洋特集になっております。私は、国際海洋法の方から思い切り書いてくれと言われて原稿を出しておりますが、そのタイトルが、今日と同じタイトルで、「新しい国際海洋法の思想とオーシャン・ガバナンス」というものです。従って、私の原稿に沿いながら話を進めたいと思っています。

実はいま、国際問題、特に海洋問題なんですが、勉強をするのが大変難しい時代になっております。なぜ難しいかというと、伝統的社会科学の方法論が崩壊してしまって、まったくというくらい使い物にならない。したがってどう勉強したらいいかわからないからです。

 

9:大学は崩壊の一歩手前

 

私の所属する学部は、いままでのカリキュラムを最近改めて、大学生であれば、単位を幾つ取ったかということではなくて、4年間在学して勉強したあいだにどういうことを考えたのか、どういう勉強をしたのかということが大事なので、4年間在学した報告書を出さなければ卒業させない、ということにしました。つまり卒論というものを、4年間勉強した報告書と位置づけて、必修としたのです。

その結果、学生は右往左往しまして、昔は先生がやさしいから誰々先生の科目を取るとか、試験がやさしいからある科目を取るかという形で、単位をいかに揃えるかということに汲々としていたんですが、現在はそれがなくなって、1年生の時から卒論のためにどういう勉強をしていくかというふうに、指導もしないのに考えるようになりました。

初めは1、2年生が教養部で、3、4年生だけが専門の学生として私たちが担当していたのですが、もっと早くから専門の先生が面倒を見なければいけないということになり、2年生に教養ゼミを置いて何かしましょうという形をとりました。3年になったらプロゼミをやって、4年生で卒論ゼミをとれば良かったのですが、卒論が必修になったために、全部が結びついて、実質的に2年生から卒論ゼミをやっているというわけのわからないことになっています。

私が言いたいのは、そうやっても学生は簡単には卒論が書けないということです。今後は卒論が書けなくて留年する学生が相当ふえることが予想されています。商学部では、実際に卒論が書けなくて在籍者を上回る留年者がたまってどうしようかという大変な状況になっています。

それはある意味では、大学生そのものの学力が一般的に低下していることとも関連しています。もうさっぱりわかっていない学生が数多くいます。英語の先生でベルギー出身のアメリカ人がいるんですが、入った学生に対して、「ベルギーはどこにありますか?」と英語で聞くんですね。誰も答えられないんです。私たちの大学はレベルそのものが低い学校ではありません。しかし最初の試験で、ベルギーはアメリカ大陸にありますか、南米にありますか、ヨーロッパにありますか、アジアにありますか、という答案を書けと言ったら、ほんのちょっとしか答えられない。

 

 

 

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